今回のオススメ本「会計の世界史」とは?

銀行と簿記を生んだ中世イタリアに始まる500年のドラマ
今回紹介するのは、田中靖浩さんの「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語」(日本経済新聞出版、2018年)です。
会計のお作法が、どんな経緯で生まれてきたのかがわかるとってもオススメな1冊。
内容を超適当にかいつまんで説明するとこんな感じです。
・銀行と簿記が生まれた中世イタリアから始まる会計の500年史がわかる!
・ローマ数字で帳簿をつけていた「超めんどくさい時代」など、思わず笑っちゃう話も満載
(アラビア数字の「777」は、ローマ数字で「DCCLⅤⅤⅡ」。ゼロと位上がりがないので表記が長い)
・「ハイボールの語源」など、おもしろい豆知識も!
冒頭の「父より息子へ」に隠された意味

本の冒頭には「父より息子へ」のメッセージ。これ、著者・田中靖浩さんがお子さんに宛てたメッセージ?かと思いきや、会計の500年史に深くかかわっているキーワードだったのです。
その真の意味は、最後まで読むと分かります。ちょっと鳥肌モノででした。
ちなみに「父より息子へ(Father To Son)」と言えば、クイーンの最高傑作「QUEENⅡ」の冒頭を飾るドラマチックな名曲のタイトルと同じですね。この曲も、いつ聞いても鳥肌ゾワゾワです。
ダ・ヴィンチ、ジョー・ケネディ(JFKの父)、プレスリーらが登場

近代会計学の父でイタリアの数学者、ルカ・パチョーリや、銀行業を始めたメディチ家の人々のほか、こんな人たちも登場します!
・イタリアの「万能の天才」レオナルド・ダ・ヴィンチ
・イギリスの「蒸気機関車の父」ジョージ・スティーブンソン
・アメリカの「大悪党」ジョー・ケネディ(ジョン・F・ケネディの父)
・エルヴィス・プレスリーやポール・マッカートニーも
田中靖浩さんは「笑いが起こる会計講座」が評判の公認会計士

著者の田中靖浩さんは、作家で講師で公認会計士。多才です!
プロフィールを簡単にご紹介します。
・1963年、三重県生まれ。早稲田大学卒
・外資系コンサルティング会社などを経て、公認会計士として独立
・企業研修や講演が「笑いが起こる会計講座」として評判に
「会計の世界史」の学び①|減価償却とは??

減価償却=初期投資を小分けにして費用計上する会計処理
この本を読んで目から鱗が落ちたのが、
減価償却の歴史です。
減価償却とは、設備投資の支出を会計上、数年にわたり小分けにして費用計上することですね。
たとえば、サバ缶工場を経営するとらねこさんが、事業立ち上げの1年目、
生産ラインの整備に1200万円を使ったとしましょう。
毎年の売り上げは400万円で変わらないと仮定します。サバ缶の原材料費はとりあえず無視。
初期投資を一括で費用計上すると「1年目は大赤字」
現金収支を見るとこうなります。

1年目は大赤字だニャ
| 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | |
| 収 入 | 400万円 | 400万円 | 400万円 | 400万円 |
| 支 出 | 1200万円 | 0 | 0 | 0 |
| 収 支 | ▲800万円 | 400万円 | 400万円 | 400万円 |
初期投資を数年間に分けて費用に繰り入れ→1年目から「利益」が出現!
減価償却の考え方によって、初期投資を4年に分けて均等に費用計上すると、損益はこうなります。
| 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | |
| 売 上 | 400万円 | 400万円 | 400万円 | 400万円 |
| 費用(減価償却費) | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 |
| 利 益 | 100万円 | 100万円 | 100万円 | 100万円 |
初期投資を4年に分割して費用に繰り入れると、
決算上、毎年100万円の利益が出ている、ということになります。
「利益」は計算上の数字→だからキャッシュフロー(現金収支)が大事
実態はもちろん、1年目の金庫はスッカラカン。ほぼ、火の車です。
経営者は資金繰りに追われます。
だから多くの経営者が「大事なのはキャッシュフロー(現金収支)だ」と実感を込めて言うのですね。
「利益」とは、あくまで計算上の数字にすぎません。
「架空の会計処理」にどんなメリットがある??
なぜ、こんな「架空の会計処理」をするのか?
この国税庁ウェブサイトの説明にあるように、一般的には「建物、機械、備品類は時の経過によって価値が減っていくから、何年かに分けて費用計上するのです」といった説明が多いです。
でも正直、どうもピンときません。
「何年かに分けて費用計上するメリットは何か?」という観点で考えてみましょう。
「会計の世界史」の学び②|「架空の会計処理」なぜ必要?

会社にとってのメリット|「事業は計画的に進んでいる」と株主に説明できる
会社にとって、設備投資にかかったお金を数年に分けて費用計上するメリットは何でしょうか。
ひとつは、事業が計画的に実行されていると株主に説明することです。
とらねこさんのサバ缶工場では当初から、初期投資を4年かけて回収し、累積損失を解消する計画です。
でも、1年目の現金収支だけを見て「この会社、いきなり赤字じゃん!」と低い評価を降され、株価が下がるのは本意ではありません。
中期的にみて、事業は堅調に推移する見通しだと説明するためのワザが「減価償却」という会計処理だと言えます。

会社がうまくいってるかどうかは、長い目で見てほしいニャ。
サバ缶の品質には自信があるニャ~
株主にとってのメリット|「その年の設備投資の有無」で配当が変わることがない

上場企業の株は自由に売買できます。
とらねこさんのサバ缶工場が、現金収支をそのまま決算として公表すると、「1年目は赤字」で、「2年目以降から儲けが出る」、ということになります。
そうすると、たまたま1年目に株を持っていた人は配当を受けられず、2年目以降に株を持っていた人には配当が転がり込む、という事態が起きかねません。
減価償却には、「たまたまその年に設備投資があったかどうか」で株主が受ける恩恵に差が出ないようにするという効果があります。
税務署にとってのメリット|コンスタントに税金を徴収できる
赤字だと、会社は法人税を払わなくてよい、というルールがあります。
現金収支を「決算」とすると、とらねこさんのサバ缶工場は1年目の法人税支払いを免除されます。
でも一方で、サバ缶工場は毎年400万円の売上があります。
税務署としては、毎年、同じ売上が上がっているなら、1年目から税金を払ってほしい。
税収が年によってガタガタ変動するのはよろしくない。予算を組む時のシミュレーションがぶれます。
だから、減価償却によって費用を平準化することで、
会計上は「毎年100万円の利益がある」という状況の方が、税務署としても喜ばしいわけです。
「会計の世界史」の学び③|減価償却誕生秘話―始まりは英国の鉄道会社

リバプール・マンチェスター鉄道開通
日本最初の鉄道が1872年(明治5年)、新橋ー横浜間に開通しました。今の地名でいうと、汐留と桜木町の間を結んでいたそうです。
では世界初の鉄道は?
1830年9月15日、イギリスの港町リバプールと、新興工業都市マンチェスターの間に開通しました。
「会計の世界史」によると当時、ヨーロッパはこんな情勢でした。
時は1830年、ナポレオン失脚直後|開通式は欧州各国のスパイだらけ

1830年といえば、ヨーロッパを席巻したナポレオンが失脚した直後。そのころヨーロッパの政治家や軍人たちは、「次の戦争がすぐ起こるに違いない」と考えていました。
田中靖浩さん「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」(日本経済新聞出版社、2015年)
そんな中で、リバプール・マンチェスター鉄道の開通式が開かれました。
参列者の中に、目つきの鋭い男がちらほら。某国のコードネーム「ふわねこ」さんはこんなことを考えていました。

これすごいニャ。この新しい輸送手段を使えば、兵士、武器、弾薬、食料をいちどにたくさん運べるニャー
参列したお歴々の中には、ヨーロッパ各国の軍事スパイが紛れていたそうです。
「ニンジン」で走る馬から「石炭と蒸気機関」で走る鉄道への大転換!
なんせそれまでは、輸送手段、移動手段といえば
「馬」です。
石炭と蒸気機関で走る鉄の塊に、当時のスパイも度肝を抜かれたに違いありません。
「会計の世界史」の学び④|イギリスで「鉄道投資ブーム」が起きる

「会計の世界史」によると、リバプール・マンチェスター鉄道の株主は、マンチェスター商人よりもリバプール商人の方が多かったそうです。
工業都市のマンチェスターには保守的な商売人が多く、目新しい鉄道よりも、自分の工場への投資を増やすことを選びました。
方や、世界につながる港町リバプールの商人は新しい物好き。鉄道株にすぐさま飛びつきました。
英語の「Railway Mania」は「鉄道株でひと儲け狙う人」
結果、リバプール・マンチェスター鉄道は急成長して、リバプール商人は大儲け。
こんなことがあって、イギリスで鉄道投資ブームが起きます。
日本で「鉄道マニア」といえば「鉄っちゃん(鉄道ファン)」のことですが、元祖イギリスの「鉄道マニア(Railway Mania)」は鉄道株で一儲けをもくろむ人のことをいいます。
田中靖浩さん「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」(日本経済新聞出版社、2015年)
つまり…「鉄道マニア」は「鉄っちゃん」にあらず

英国の「鉄道マニア」はネルシャツを着てもいなければ、バズーカのような望遠レンズも持っていないのです。
「会計の世界史」はこんな豆知識も盛りだくさん。実は「ハイボール」も語源は鉄道がらみで…なんていうトリビアも出てきます。
「会計の世界史」の学び⑤|鉄道事業はとにかく、初期投資に金がかかる=固定資産が多い

田中さんは、鉄道事業の特徴をこのように説明しています。
鉄道が、世の中を変える画期的な発明だったことはまちがいありません。しかしこの鉄の馬=蒸気機関車には致命的な問題がありました――それは開業までの初期投資があまりにもデカいことです。
田中靖浩さん「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」(日本経済新聞出版社、2015年)
土地買収、資材調達、土木工事、駅舎建設、車両製造…お金がいくらあればいい?
鉄道事業を始めようと思ったら、まず予定ルートの土地を買い上げる必要があります。
バラスト、枕木、鉄のレールをしこたま調達し、何百キロにもわたり線路を敷かねばなりません。途中に川があれば橋を架ける。山があれば迂回路を探し、なければトンネルを掘る。
途中の拠点都市には駅舎を建てる。蒸気機関車の車両だって、何台も作らないと輸送効率が上がらない。線路を有効活用できない。
いったいいくら金がかかるのか…気が遠くなります。
田中さんは鉄道会社の特徴を、こうも述べています。
鉄道会社の最大の特徴は「固定資産」が多いことです。
棚卸資産としての在庫がほとんど存在せず、固定資産を長期的に利用することで稼ぐ――運河会社も似たような特徴を持っていますが、鉄道会社はさらにその規模が大きいです。
田中靖浩さん「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」(日本経済新聞出版社、2015年)
リバプール・マンチェスター鉄道はその後、同業他社との合併を重ねて「ロンドン・バーミンガム鉄道」となります。
この「ロンドン・バーミンガム鉄道」と「グレート・ウエスタン鉄道」の2社が会計に減価償却を取り入れます。
「会計の世界史」の学び⑥|減価償却、ついに誕生

鉄道会社は事業初期の固定資産への投資があまりに大きいので、現金収支をそのまま決算に反映すると、「投資をした年は赤字」「しない年は黒字」になります。
先鞭をつけた「ロンドン・バーミンガム鉄道」と「グレート・ウエスタン鉄道」
先ほど書いたように、長い目で見た投資なので「今年は赤字」というだけで会社の評価や株価が下がるのは会社としては面白くないわけです。
「赤字の年の株主」か「黒字の年の株主」かで配当の有無が変わるのは株主としても不公平感があります。
そこで「ロンドン・バーミンガム鉄道」と「グレート・ウエスタン鉄道」は、投資額を数年に分けて費用として計上する会計手法「減価償却」を採用しました。
「鉄道は長く使う。だから費用も長期にわたり計上する」
この手続きに説得力を持たせるため、理論武装もしました。
彼らは「機関車は長期的に使用するものだから、長期的に費用計上するのが合理的である」という理屈をこしらえました。
これは確かに一理あります。それまでの馬車と比べて蒸気機関車は長期にわたって使用することができます。長期にわたって使用できるからこそ、そこに大金を払えるわけです。
田中靖浩さん「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」(日本経済新聞出版社、2015年)
「会計の世界史」の学び⑦|会計の歴史が変わった!「現金主義」から「発生主義」へ
減価償却の登場は、会計の歴史の転換点だった、と田中さんは指摘しています。
なぜなら減価償却の誕生によって、会計上の儲けは収支から離れ、「利益」というかたちで計算されるようになったからです。(中略)
こうした収支から利益への進化を「現金主義会計から発生主義会計への移行」といいます。
田中靖浩さん「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」(日本経済新聞出版社、2015年)
減価償却の考え方を広げたもののひとつに「引当金」という処理があります。
将来発生する費用を先取りして、数年に分けて費用計上するのです。
減価償却にしろ引当金にしろ、実際の現金収支(実際のお金の動き)ではありません。
とらねこさんのサバ缶工場の1年目のように、「決算上、利益は出ているけど、資金繰りは火の車」なんてこともあります。だから、「黒字倒産」という現象も起きます。
費用と利益をある意味「操作」できる発生会計主義のもとでは、不正が起きやすい。「粉飾決算」がたびたびニュースになるのもそのためです。
さあ、面白くなってきた!…続きはぜひ、「会計の世界史」でお楽しみください。
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