「進撃の巨人」の作者・諌山一さんは創作に当たり影響を受けた作品をいくつか挙げていますが、その一つが司馬遼太郎さんの小説「坂の上の雲」。
「進撃の巨人」の設定や描写の中から、「坂の上の雲」の影響が感じられるところを書き出してみたいと思います。中には、こじつけもあるかもしれません…ご容赦ください。
①ミカサの名前の由来は、連合艦隊の象徴・戦艦「三笠」

これはもう、一番わかりやすいやつですね。
戦艦「三笠」は、日露戦争を戦った連合艦隊の旗艦です。連合艦隊総司令官の東郷平八郎が座乗していました。
対ロシア海戦を勝利に導いた天才参謀・秋山真之も東郷の片腕として乗り組んでいました。
日露戦争での海軍の戦いぶりは、「坂の上の雲」によって多くの日本人が知るところとなりました。
諌山さんは、栄光の連合艦隊の象徴である「三笠」の名を、最強の兵士・ミカサに冠したのでしょう。
日本海海戦での勝利後の三笠の悲劇
ちなみに戦艦・三笠は、日本海海戦の大勝利のあと佐世保港に凱旋しますが、佐世保停泊中に爆発事故を起こして沈没します。内部の弾薬庫にあった火薬に引火したことが原因です。
ロシアのバルチック艦隊を鮮やかに破った日本海海戦で、日本海軍の死者は100人前後だったといわれています(88人と書いてある資料もあれば、117人と書いてある資料もあります)。
これに対して、佐世保港での爆発事故で無くなった海軍の兵士は339人。戦勝後の事故で、日本海海戦よりも多くの兵の命が失われたのです。
このエピソードは、「坂の上の雲」単行本の8巻(最終巻)に淡々と紹介されています。
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②タレ目で酒飲み・ピクシス司令のモデルは、秋山好古
「進撃の巨人」で駐屯兵団を率いるピクシス司令の造形は、秋山好古の特徴を如実に反映しています。
秋山好古は真之の兄で「日本騎兵の父」「最後の武士」と称される人物です。陸軍少将として日露戦争を迎えます。騎兵の機動力を存分に生かす機会には、日露戦争をつうじてあまり恵まれなかったものの、兵力の不足をたぐいまれな作戦指導で何度も乗り切ります。
好古は日本人離れした風貌の持ち主でした。特徴は、切れ長の大きなタレ目と、高い鼻。しょっちゅう西洋人に間違われていたそうです(好古は愛媛の下級武士の家の出です)。

(秋山好古)
秋山好古は無類のの酒好きとしても知られていました。
出征時の荷物は大量のブランデー。砲弾が飛び交う戦場でも、水筒に入れた酒をぐびぐび。
「坂の上の雲」には、若き日の好古の「あし(私)のめしは酒じゃ」というセリフもでてきます。
酔いどれキャラとして描かれるピクシス司令の造形には、秋山好古のそんな特徴も取り込まれていますね。
ピクシスはマーレから持ち込まれた「ジークの脊髄液入りワイン」をラッパ飲みしてしまったばかりに、最後は…
主要人物の大半が退場してしまう作品終盤で、ピクシスもまた、エレンが描いた結末を見届けることなく去っていきます。この場面は単行本31巻収録です。
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③スラバ要塞攻防戦のモデルは、旅順の二〇三高地攻防戦

「進撃の巨人」の中盤に出てくるスラバ要塞攻防戦は、マーレが誇る「巨人部隊」の力が、近代戦では通用しなくなりつつあることが示されるシーンです。
マーレ軍は、中東連合と交戦中。中東連合の軍港に隣接するスラバ要塞の制圧を図り、飛行船から落下傘部隊を投入します。
落下傘で敵の要塞に降り立ったのは、ジーク(獣の巨人)、ライナー(鎧の巨人)、そして、ジークの脊髄液で「無垢の巨人」にされた多くのエルディア人。巨人部隊は要塞の守備兵を混乱に陥れ、首尾よく中東連合軍を無力化します。
そして要塞制圧の次のステップは、ふもとの軍港に停泊する艦隊の殲滅。
ジークは要塞砲の弾丸をわしづかみにすると、眼下の軍港に浮かぶ無数の戦艦にむかって投げつけます。
ジークの弾丸ぶん投げで辛勝も「巨人は無敵ではない」ことが明らかに
ほぼ同じタイミングで戦艦側から一斉砲撃を受け、ジークをとっさにかばったライナーが死にかけますが、からくもジークの投げつけた弾丸が艦隊をすべて沈めます。
戦艦側の反応があと少し早ければ、死んでいたのはジークでした。この戦いは、「巨人はもはや無敵ではない」ことが世界に知れ渡る戦いとして描かれてます。
スラバ要塞攻防戦は、単行本23巻収録です。
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日露戦争「旅順要塞攻防戦」無策の乃木希典と天才・児玉源太郎

(児玉源太郎)
この「スラバ要塞攻防戦」の構図は、「坂の上の雲」で描かれている日露戦争の旅順攻防戦をモデルにしていると思われます。
日露戦争の前半、ロシア海軍の第一太平洋艦隊(旅順艦隊)は周囲を山に囲まれた旅順湾に立てこもっていました。いわゆる「海の籠城戦」です。その狙いは、ロシア本国からバルチック艦隊が来るのを待つこと。
日本海軍の戦力は、東郷平八郎率いる連合艦隊が全て。それに対してロシア海軍は、連合艦隊に匹敵する戦力を2セット持っていました。第一太平洋艦隊とバルチック艦隊です。
ロシアの作戦は、バルチック艦隊が極東に到着するのを待ち、日本の倍の戦力をもって海戦で圧倒すること。
日本軍としては、バルチック艦隊が合流する前になんとしても第一太平洋艦隊を叩き潰さなければいけない状況です。
堅牢なロシアの旅順要塞

(海岸に砲身を向けているロシア旅順要塞の砲台)
しかし、旅順湾の周囲の高地にはロシア陸軍が堅牢な要塞を築いており、連合艦隊が湾の入り口に近づくと要塞砲で蹴散らされてしまいます。そこで日本海軍は、陸軍に「旅順要塞をなんとかして~」と依頼します。
日本陸軍は、満州の野から第三軍をさいて旅順要塞攻略に当たらせます。戦いの焦点になったのが「二〇三高地」です。名前は、標高が203メートルだったことに由来します。
この「二〇三高地」の頂上に立つと、旅順湾を見下ろすことができます。つまり日本軍はこの高地を制圧すれば、旅順湾に引きこもっているロシアの第一太平洋艦隊がすべて丸見え。容易に照準を定めることができるので、長距離砲で撃沈できる、というわけです。
二〇三高地を攻めあぐねた乃木希典と伊地知幸介

(乃木希典)
実際の戦闘は困難を極めます。旅順要塞攻撃を担当した日本陸軍の第三軍は、司令官・乃木希典の情勢判断のまずさ、参謀長・伊地知幸介の無能っぷりによって、死者を増やすばかり。なにせ、ガチガチに固められた要塞の攻め方が分からず、白兵突撃を繰り返すしか能がない。死んでいった兵はうかばれません。
業を煮やした満州軍総参謀長の児玉源太郎が、本営を飛び出して旅順に乗り込み、臨時の第三軍司令官のような役回りを務めます。
もともと軍艦に積まれていた巨大な長距離砲を引きずって後方に設置し(こんな発想ができるのは天才・児玉だけでした)、二〇三高地の要塞にむかってドカン。続いて歩兵部隊を進出させ、乃木と伊地知が手も足も出なかった二〇三高地をわずか1日で制圧します。
児玉はすぐさま工兵に命じて二〇三高地の頂上に電話線を引かせ、旅順湾に停泊するロシア海軍・第一太平洋艦隊の位置を頂上から報告させます。目標の座標を確認すると、ふたたび後方の巨大長距離砲をドカン。旅順の山を越えた砲弾が、第一太平洋艦隊の上に雨あられのように降り注ぎ、第一太平洋艦隊はあっけなく壊滅します。
旅順攻略の立役者は児玉源太郎ながら、なぜか乃木希典が国民的英雄に
「坂の上の雲」では、旅順攻略の立役者が児玉源太郎であることが明らかにされますが、乃木の指揮権を一時的に奪った児玉は、このことを伏せたまま、戦後まもなくこの世を去ります。
児玉の活躍が明らかにされなかったのは、緊急措置とはいえ、児玉が乃木の指揮権を一時奪ったことは軍の人事規範を逸脱する行為だったから。
その結果、実際は何の役にも立たなかった乃木希典が、戦後、旅順攻略のヒーローとして国民的な人気を博す…というエピソードもとても面白いです。
「坂の上の雲」で旅順攻防戦のすさまじさ、児玉源太郎の切れ者っぷり、乃木希典のダメダメっぷりとふしぎな運命が描かれるのは、文庫の3巻~4巻。この長編小説のハイライトのひとつです。
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④「悪魔」と呼ばれた侵略国家エルディアのモデルは、帝政ロシア
「進撃の巨人」の後半では、エルディア国が九つの巨人の圧倒的な力で周辺国を侵略し、帝国を築き上げた歴史が明らかになります。エルディア人は、人を食らう「無垢の巨人」に化けるおぞましさも相まって、侵略された国々から「悪魔」と呼ばれます。
エルディア人ながらマーレの支配下に置かれ、「反エルディア」の教育を受けてきたベルトルトが、アルミンらに対して「悪魔の末裔が!根絶やしにしてやる!」と叫ぶのは、単行本12巻でした。
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かつて圧倒的な軍事力(=巨人の力)で世界を脅かしたエルディア人が「悪魔」と呼ばれるのも、「坂の上の雲」がヒントになっているようです。
モデルは、日露戦争当時、崩壊寸前だった帝政ロシアでしょう。
フィンランドやポーランドから「悪魔」と呼ばれていた帝政ロシア
「坂の上の雲」では、日本軍が陸戦、海戦だけでなく、スパイ工作でロシアの内部崩壊を図っていたエピソードも描かれます。明石元二郎という陸軍大佐がヨーロッパに潜入し、帝政ロシアの転覆を目指す革命勢力を支援していたのです。
このころの帝政ロシアは、皇帝の失政を誰も止められず、官僚機構は腐敗しきっていて、まさに「革命前夜」。明石はヨーロッパ滞在中、フィンランド、ポーランドなど、帝政ロシアに屈服させられた国の闘士と知り合い、日本から持ち込んだ資金を提供して革命の動きを支援します。
フィンランド、ポーランドの闘士たちが、帝政ロシアを形容するときに必ず使っていたのが「あの悪魔」という言葉。
彼らは、祖国を奪った「強大な悪魔」であるロシアにガチンコの戦いを挑む小国・日本に、強いシンパシーを抱いていた——そんなエピソードも描かれます。
強大な軍事力をもって周辺国を蹂躙する帝政ロシアのお国柄は、「進撃の巨人」のエルディア帝国のイメージとピッタリ重なります。
「ロシア革命の立役者」と呼ばれた軍事スパイ・明石元二郎

(明石元二郎)
軍事スパイとして帝政ロシアを「内側から崩す」ために奔走した明石元二郎の戦いもまた、命がけでした。
勢力圏を監視するロシアの官憲に見つかれば、間違いなく殺されていたわけですから。明石元二郎はのちに「ロシア革命の立役者」とまで呼ばれたそうです。明石の暗闘もまた、戦争のすさまじさを物語ります。このパートは、「坂の上の雲」6巻の読みどころの一つです。
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⑤エレンのセリフ「駆逐してやる!」の発想の基は、駆逐艦??
「進撃の巨人」1巻第2話で、無垢の巨人に母親を食い殺された主人公・エレンが憎しみに駆られて、
「駆逐してやる!!この世から・・・一匹残らず!」という有名なセリフを吐きます。
当時、独特な言い回しだなと思ったのが、「駆逐」という言葉。話し言葉ではあまり使いませんし、15歳の少年のボキャブラリーにこの単語があるとは思えません。
もしかすると、エレンに「駆逐」という言葉を使わせたのも、諌山さんが「坂の上の雲」を読んでいたからではないか??と思うのです(ちょっと、こじつけ気味です)。
というのも、「駆逐してやる!」の由来は、「坂の上の雲」にたびたび登場する「駆逐艦」ではないかと。
「坂の上の雲」の中で司馬遼太郎さんは、日本とロシアの海軍の戦力を詳細に描写して比較しています。
艦隊は、海戦の主力である「戦艦」を軸に、「巡洋艦」「通報艦」「駆逐艦」「水雷艇」など大小さまざまな船種で構成されています。
駆逐艦は、水雷を積んで敵の懐に飛び込む小型船

このうち「駆逐艦」は小型の船で、主な仕事は「水雷を積んで敵艦の脇腹に忍び寄り、至近距離から敵艦に水雷をぶち込んで高速で逃げる」こと。敵の大きな船に忍者のように近づき、一刺しで相手を仕留める——という任務を帯びた船のことです。相手に近づくまえに見つかれば、敵の艦砲射撃で粉々にされてしまう、という危険とつねに隣り合わせ。
実際の戦闘では、乗組員がびびって相手に十分に近づく前に水雷を発射し、敵にダメージを与えられずに帰ってくる——「坂の上の雲」ではそんな場面もたびたび描かれます。「駆逐艦」が登場する数々のシーンから、諌山さんの脳裏に「駆逐」というワードがインプットされ、それがエレンのセリフに採用されたのではないか??というのが、私の推測です。
諌山さんが「進撃の巨人」に仕込んだ「坂の上の雲」へのオマージュは、まだほかにもあるかもしれません。
これは…というものがあれば、コメントで教えてください!
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