【今回のおすすめ本】岩村充さん「貨幣進化論」(2010年)
元日銀マンで早稲田大学教授を務めた岩村充さんの「貨幣進化論 『成長なき時代の通貨システム』」(新潮社、2010年)はとてもわかりやすく、学びが多いです。
この記事では、「貨幣進化論」のおもしろポイントを紹介します(長いです!)
この記事、こんなギモンに答えます!
・利子ってそもそもナニ?
・金利が上がったり下がったりするのはなんで??
・パンの実?…それ、食えるのか?
岩村充さんはこんな人!日銀を飛び出した「異色の経済学者」
・1950年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業
・日本銀行で企画局兼信用機構局参事を務めた「日銀マン」
・1998年、早稲田大学教授に。2021年から名誉教授
・日銀を飛び出した「異色の経済学者」と呼ばれる
「貨幣進化論」のオススメポイント
・第1章「パンの木の島の物語」を読むだけで、モノを取引する市場と利子の誕生、貨幣の成り立ち、中央銀行と政府のビミョーな関係など、いろんなことが学べる
・お金の価値を支えているのは「信用」。ではその「信用」の源はナニ?という疑問にも一発回答
・2010年の時点で「貨幣の電子化と多様化」(今の電子マネーや暗号通貨の時代)を予言
| 目からウロコ度 | ★★★★★ |
| 知的興奮度 | ★★★★★ |
| オススメ度 | ★★★★★ |
| しろおびの読了時間 | 7日 (噛みしめるように読みました) |
「貨幣進化論」第1章|「パンの実」を交換する架空の世界

序章は、ある架空の島の物語。そこでは人々が、保存がきく大ぶりな果実「パンの実」を栽培して暮らしています。
「パンの実」は実在します|ポリネシア原産の果実
これは実在する植物で、ポリネシア原産。木は「パンノキ」と呼ばれる。その果実は英語で「ブレッドフルーツ」(文字通り、パンの実)といいます。
蒸す、焼く、発酵させて味噌のようにする、などなど、いろいろな食べ方あります。
焼くと白いパンのような感じになるそうな。
ただし、生で食べるとお腹をこわすらしいです。
パンの実は、みんなの主食であり通貨
「貨幣進化論」の序章では、パンの実は島の人々の主食であり、また通貨でもあります。
江戸時代までのコメと一緒ですね。
家族が食べる分は消費し、一部は翌年の収穫を得るための種として貯蔵し、時季が来れば畑に蒔いて栽培します。人々は残ったパンの実で日用品を買います。
パンの実の「取引市場」が成立
やがて島の広場で、パンの実の取引が始まります。
・豊作でパンの実が余った人
・実りが悪くて1年間食べる分を収穫できなかった人
・同居家族が増えて、急きょ物入りになった人
こんな人たちが広場に集まります。
「貨幣進化論」でわかる利子の始まり!|借りたパンの実を栽培し「1年後に増える分」が利子

パンの実は植えて育てれば翌年に収穫できるから、
パンの実の取引では「借りた分は1年後、収穫した分から返す」という約束を交わします。
パンの実は「増える」→借りたら「増えた分を返す」のが義理→これが利子!
パンの実は、栽培して収穫することで「増える」性質があります。
だから、受け取ったパンの実を翌年返す時には、借りた分をそのまま返すだけでは足りないのです。
「1年後に増える分」を上乗せして返すのがモノの道理ということになります。
かんたんに言うと、この「1年後に増える分」の上乗せがモノにつく利子です。
1年後にどのくらい増えるか?|それを示す値が「自然利子率」
これが利子の源で、どのくらい増えるかを示す値が「自然利子率」ということになります。
岩村充さんのやさしい解説|資本市場とは「現在財と将来財の交換の場」

パンの実の取引を例に、岩村さんは「現在財と将来財の交換」という経済学用語についてもわかりやすく教えてくれます。
ちょっとアレンジして、例を挙げてみましょう。
しまねこさんが今年、広場で知り合ったはちわれさんに100個のパンの実を借りたとしましょう。「
「今年のパンの実100個」と「来年のパンの実110個」を交換する

今年は取れ高が少なくてピンチだニャ。パンの実100個、貸してほしいニャ

わかりました。来年、110個にして返してニャ!
これは、
しまねこさんが100個のパンの実を「年10%の利子」ではちわれさんから借りる
ということです。別の言い方をすると、
はちわれさんは「今年のパンの実100個」を相手に渡す
しまねこさんは「来年のパンの実110個」を相手に渡す
という約束を交わしたことになります。
自然利子率とは「現在財と将来財の交換比率」
これを経済学では「現在財と将来財の交換」といいます。
そして自然利子率とは、この「現在財と将来財の交換比率」のことを指します。
広場では、ご近所づきあいや顔なじみ同士の「困ったときはお互いさま」の博愛精神を超えて、知らない人同士が契約によってパンの実を貸し借りします。
・貸す方は、余ったパンの実を増やすために。
・借りる方は生活を維持するために。
どちらも、自分の利のために行動しています。
200年以上前に、経済学の父、アダム・スミスが指摘しています。人は、自分を利するために行動する。
「人は、自分の利益を追い求めて働く」アダム・スミスの教え
アダム・スミスはこう言っています。
・人は、自分の利益を追い求めて働く
(パン屋は、みんなを飢えさせまいとする博愛心でパンを売っているんじゃない。儲けるために売っているのだ―という意味の有名なフレーズがあります)
・その個々人の行動を、市場システムという「見えざる手」が調和させている
・見えざる手の作用で「己のために稼ぐ」という行動が、結果的に人のためになる
ちなみにこの話、参考書はこちらです。
アダム・スミスの学説はいろんな本に載っていると思いますが、この「入門経済思想史 世俗の思想家たち」は読みやすくてとってもオススメです。
「入門経済思想史 世俗の思想家たち」については、こちらの記事でレビューしました!
▼参考記事はこちらです

岩村充さんが解説する「見えざる手」|利己の心が調和して世の中全体が豊かに
岩村さんはパンの実の取引市場を例に挙げながら、アダム・スミスの言葉「見えざる手」について触れています。
彼は、この形容の中に、個人にとっての利己的な行動が市場で調和されて、結果として世の中全体の豊かさに至るという理念を込めました。博愛の心では限界があった「人々の出会い」は、利己の心をドライバーにすることで大きく広がるからです。より多くの人々が市場で出会えば、世界にはより多くの富が生み出されるようになります。(中略)そうした出会いの場を、現在の私たちは「資本市場」と呼んでいます。資本市場とは、現在財と将来財を取引する場のことです。
岩村充さん「貨幣進化論『成長なき時代の通貨システム』」(新潮社、2010年)
この資本市場の定義は、とてもわかりやすいです。
債券市場も、株式市場も、先物取引市場も、すべて「現在財と将来財の取引の場」です。
「自然利子率」の利率はどう決まる?

先ほど書いたように、パンの実は農作物だから、種を蒔いて育てれば1年後に次の代の実を収穫できます。つまり、パンの実は時間の経過に応じて増える性質があります。
では、はちわれさんがしまねこさんに貸したパンの実100個は、来年どれくらい上乗せして返してもらうのが妥当なのでしょうか。
岩村さんはパンの実を例に、利子率が決まる要因を3つ挙げています。 ![]()
利子率が決まる要因①翌年の収穫に対する予想

島に住む人々が「次の年はたくさんパンの実が獲れそうだ」との見通しを持っていれば、今年借りたパンの実を1年後に返す時の上乗せ分(=自然利子率)は高くなります。
逆に、「次の年の収穫はどうも期待できないね・・・」という予想が大勢になると、自然利子率は下がります。 ![]()
利子率が決まる要因②予想の不透明さ&将来に対する不安=【リスクプレミアム】

パンの実の収穫が増えるにしろ減るにしろ、予想の確度が高ければ、利子率を決めるのは難しくありません。
しかし、「来年はパンの実の獲れ高がどうなるか、どうも読めない」ということもあります。
水害が来るかも…|伝染病がはやったらどうなる??
・何事もなければそれなりの豊作だろうが、何年かに1度訪れる水害が来年あたり来そう。
・今年、伝染病にやられてろくに実が獲れなかった家もある。あの伝染病がこのあたりに広がったらお手上げだ…。
などなど。
運よく豊作ならみんな幸せだけど、もし島じゅうが凶作に見舞われたらみんな飢えかねません。
岩村さんはこのように解説しています。
将来の予想が不安定になるほど、利子は高くなる|これが「リスクプレミアム」
人々は来年の収穫に対して大きな不安を抱えているときほど、現在財を将来財に交換することに対して慎重になるでしょう。要するに、自然利子率は人々の将来の予想が不安定になるほど高めになる傾向を持つことになります。これは投資理論の世界で「リスク・プレミアム」と呼ばれている利子率の決定要因の一つです。
岩村充さん「貨幣進化論『成長なき時代の通貨システム』」(新潮社、2010年)
はちわれさんが、しまねこさんに100個のパンの実を貸す場合で考えてみましょう。
来年まで何事もなくそれなりに豊作だったら、1年後、110個にして返してもらうのが妥当だとします。
でも、大雨やら伝染病やらのリスクを考えると、

まず豊作とみて大丈夫…とは言えないニャー
もし、運悪く大雨や伝染病に見舞われて凶作だったら、今年しまねこさんに貸した100個のパンの実は、1年後に50個しか返してもらえないかもしれません。そうすると、はちわれ家も、当てにしていた食糧が手に入らず困ることになります。
はちわれさんは貸すのをためらいます。こうして、取引自体が低調になります。
それでも、しまねこさんが

どうしてもパンの実100個貸してほしいニャ。ほんとに困ってるんだニャー
と言ってきたらどうするか。
貸したパンの実が戻らないリスクを冒して貸す|見返りに利子率を高く⤴
はちわれさんは、貸した分が戻ってこない可能性があることを承知で、しまねこさんにパンの実100個を渡します。
そして、その「貸し倒れリスク」を引き受ける代わりに、高い利子率を設定します。

来年、130個にして返してくれるなら貸すニャ
借りる側の「信用」もリスクプレミアムに加味される
ちなみに実際の取引では、借りる側の「信用」もリスクプレミアムに加味されます。
返済能力が高いと評価される借り手は、低い金利でお金を借りられます。
公務員などの安定した職に就いている人や、無借金経営の企業は返済能力が高いとみなされます。
逆に、返済能力が低いとみなされると、高い金利でしかお金を借りられません。
なぜなら、銀行が引き受ける「貸し倒れリスク」がリスクプレミアムとして金利に上乗せされるからです。
借り手にとってはなんと世知辛い話か… ![]()
利子率が決まる要因③時間選好率

利子率が決まる要因の3つめが、時間選好率と呼ばれるもの。
岩村さんはこの「時間選好率」という経済学用語について、このような説明をしています。
時間選好率とは人々が同じ一単位の財を消費するのならば、将来財よりも現在財を選ぶという一般的な傾向のことです。
岩村充さん「貨幣進化論『成長なき時代の通貨システム』」(新潮社、2010年)
別の言い方をすると、
人々にとって「いま食べたいもの」「いま使いたいもの」「いま欲しいもの」の価値は、時間がたてばたつほど落ちる、ということです。
これを「時間割引」とも言います。
時間選好率は「時間割引」とも|貸して増やすより、いま食べたい(使いたい)!
ここに、パンの実をお腹いっぱい食べたいしろねこさんがいます。

宵越しのパンは持たない主義だニャ
しろねこ家は豊作でした。でも、大食漢でもあるしろねこさんは、なかなか「余った分は他の人に貸して、利子を取って1年後に増やそう」とは思いません。
「しろねこさんが抱える余剰のパンの実を、何とかして借りられないか」
そう思った人がしろねこさんの心を動かすには、相当高い利子率を設定しなければならなりません。

今年のパンの実100個が、1年待つと140個になる?
それなら毎日食べる分を少し減らしても文句ないニャ。
どうぞ、パンの実100個貸しますニャ
今を楽しみたい人は、満足を得る機会を先延ばしできない
「いま消費することで得られる満足」を重視する人は、なかなか「いまはガマンして増やす。満足を得る機会を先延ばしする」という選択になびきません。
この「時間選好率」は、利子率を決める要因の一つ、というよりも、利子率の高低が人々の行動を左右する、ととらえた方がわかりやすいかもしれません。
ちなみに。
複利の力を使ってお金を増やす心コツは「受け取りの先延ばし」である、ということをこちらの記事で書きました!
▼参考記事はこちらです
!

岩村充さんのズバリ解説|「モノにつく利子」に合わせて「お金の利子」が決まる

「貨幣進化論」第1章の「パンの木の島の物語」の世界にも、やがてお金が誕生します。
パンの木の島に、貨幣が誕生|パンの実から「宝貝」そして「粘土板」へ
最初は宝貝が貨幣として流通します。貝の貨幣価値は王家が保証しています。
歴史上、貨幣としてよく使われたのは貴金属。
じつは世界各地で使われていた「宝貝」
じつは宝貝も、中国、モルジブ諸島、西アフリカなどいろんな地域で貨幣として使われていたそうです。
そのうち宝貝が不足してくると、王家は粘土板の貨幣を作って島民に貸し出します。
貨幣誕生で、ボロ儲けを目論む輩が登場

粘土板の貨幣が流通し、定着すると、
パンの木の島にボロ儲けを目論む輩が現れました。仮に彼をふわねこさんとしましょう。

楽して稼ぐ方法、知りたいかニャ?
パンの実農家でもないふわねこさんは、次の①~⑦の手順で、
パンの実10個分のお金を魔法のような鮮やかさで手に入れます。
「元手ゼロ」の錬金術をマネる輩が続出
なにせ「元手はゼロ」です。
キジトラさんの手口を模倣するフォロワーが次々に、王家の貨幣貸し出し窓口(つまり銀行)に列をなすようになります。
そこで王は手を打ちました。
王様の対策|貸し出すお金に「パンの実と同じ利子」を乗せる!

きょうからお金の貸し出しにも、パンの実と同じ利子を乗せます。利子率は年10%じゃ
こうすることで、
パンの実の自然利子率を利用した「濡れ手に粟の大儲け」はできなくなります。
モノにつく利子に合わせ、貨幣発行者がお金の利子を決める

これが「お金の利子」の始まり!
モノにつく利子に連動させて、貨幣発行者がお金の利子を決める。
これが、僕らが日ごろ目にする「お金の利子」の始まりーというお話でした。
これは「貨幣進化論」の序章のほんの一部。ここからどんどん面白くなります。
この先もどんどん面白くなる「貨幣進化論」
金(ゴールド)や銀との交換が保証されていた兌換紙幣(兌換通貨)の時代が過ぎ、いまのお金は「信用通貨」と呼ばれます。みんな、ただの紙切れに価値があると信じてお金を使っているのです。
「信用通貨」の文字通り、お金をお金たらしめているのは「信用」です。
では、この信用の源泉とは何でしょうか?
著者の岩村充さんは「貨幣進化論」の終盤でその答えも示してくれます。ぜひご一読ください…!
kindleアンリミテッドなら無料体験で読めます
「貨幣進化論」はkindleでも読めます。
kindleアンリミテッドなら、30日間の無料体験あり。無料期間終了後は月額980円です。
本のラインアップは200万冊以上。
読書量が多い人なら、サブスク型のkindleアンリミテッドがおすすめです!
経済を学ぶなら「聴く日経」がおススメ
・経済オンチのまま大人になってしまった…
・金融のこと、投資のこと、ちゃんと勉強したい!
・節税対策ってどうすればいいの?
そんな人におすすめなのが、「聴く日経」です。日本経済新聞の記事から厳選した1日20分の音声番組。
ラジオNIKKEIのアナウンサーがわかりやすくニュースを解説してくれます。
通勤電車の中で「流し聞き」するだけで、経済が学べます。
audiobook.jpのサブスクから申し込むと、14日間無料!
経済って敷居が高い…そんな風にしり込みしているあなたにオススメのコンテンツです。 ![]()
こちらの記事もオススメです!












お読みいただき、ありがとうございます。コメントをお寄せください!