大人気のドラマ「VIVANT(ヴィヴァン)」。
最終話の放送が終わっても、あれこれ語りたくなる要素が満載です。
真の主人公ともいえる「ノゴーン・ベキ」(役所広司)は魅力あふれるキャラクターとして長く語り継がれそうです。
今回は、「VIVANT」のノゴーン・ベキと、映画「ゴッドファーザー」シリーズのヴィトー・コルレオーネの共通点を3つ、書こうと思います。はい、どちらも、悪の組織の親玉ですね。
盛大にネタバレしますので、「VIVANT」をこれからご覧になる方はご注意ください。
共通点①新天地で「新しい名前」と「望まなかった新しい人生」を得る―VIVANT編
日本名「乃木卓」→バルカでの異名「ノゴーン・ベキ」(緑の魔術師)
まず「VIVANT」から。
ノゴーン・ベキは、元の名を乃木卓(のぎ・すぐる)といいました。生まれは出雲。
東大を出て警視庁に入り、公安部に配属されます。
4つの民族が対立する中央アジアの「バルカ共和国」の政情を探るスパイとして、現地に潜入します。妻・明美(高梨臨)を伴って。
表向きの職業は、農業使節団の技術者。
井戸を掘り、一面の砂地を緑の畑に変えて現地のヒーローになります。
地元の人たちが感謝を込めて付けた異名が「ノゴーン・ベキ」(緑の魔術師)。
乃木卓は現地で子どもにも恵まれます。
この子が、のちに陸上自衛隊の秘密諜報・特殊工作部隊「別班」の精鋭としてノゴーン・ベキを追い詰める乃木憂助(堺雅人)です。
妻・明美、息子・憂助との別れ
その後、内戦が勃発しバルカは大混乱。乃木卓は公安の仲間に助けを求めます。
武装勢力に追われ逃げ惑う乃木一家。憂助はまだ3歳です。
ここで、乃木卓の運命を変える出来事が起きます。
乃木一家を救出しに来たヘリが、目の前で急にきびすを返します。
乃木家の3人は、日本に見捨てられたのです。
乃木卓の記録は抹消され、日本では「いなかったこと」にされてしまいます。
武装勢力に捕らえられた一家3人のうち、妻・明美は拷問死。幼い憂助は人買いに売り飛ばされます。
放浪の旅、ノコルとの出会い|やがてテロ組織「テント」のリーダーに
「乃木卓」という元の名前と家族を失ったノゴーン・ベキ。奴隷として売られた憂助を探して何年もバルカをさまよった末、たまたま出会った身寄りのない赤ん坊・ノコルに生きる希望を見いだします。
内戦が続くバルカは「やるか、やられるか」の世界。
ベキは自らも武装勢力を組織して、バルカで生き抜きます。
村々の「雇われ用心棒」をやっているうちに、ベキの一味は高額の報酬でテロを請け負う闇の組織「テント」へと変貌していきます。
共通点①新天地で「新しい名前」と「望まなかった新しい人生」を得る―ゴッドファーザー編
シチリアでは「ヴィトー・アンドリーニ」|NYで「ヴィトー・コルレオーネ」に
ここからは「ゴッドファーザー」の話です。
ヴィトー・コルレオーネはイタリア・シチリア島出身。本名はヴィトー・アンドリーニといいます。
ヴィトーの幼少時代と青年時代は「ゴッドファーザーPARTⅡ」で描かれます。
マフィアが支配するシチリア島はとにかく治安が悪く、幼いヴィトーは目の前で母親が撃ち殺されるという凄惨な経験をします。
「男の子は大きくなれば、必ず復讐する。今のうちに消しておく」。マフィアの首領、ドン・チッチオはヴィトーも殺そうとしますが、大人たちの手引きでヴィトーは追っ手を逃れ、単身、国外に逃がされます。
幼少時代に母を亡くし単身、海外へ
逃亡先はアメリカ・ニューヨーク。
入国審査のおじさんに名前を聞かれますが、英語がわからないヴィトーは何も答えません。
それどころか、一言も口を利きません。母を亡くしたショックか、天涯孤独の心細さからか…
隣にいた別の入国審査係が、名簿を見ながら
「ヴィトー・アンドリーニ、……コルレオーネ」
と読み上げます。
コルレオーネは、ヴィトーが生まれた村の名前です。名簿を読み上げた入国審査係は、
「ヴィトー・アンドリーニ君、……コルレオーネ村から来たんだってさ」というニュアンスで言った風ですが、
これをテキトーに聞いていた入国審査のおじさんが、
「はいはい、ヴィトー・コルレオーネ君ね…」
と書類に書きつけ、彼のアメリカでの名前を決定づけます。
堅気の職を失い、マフィアの道へ
新しい名前を得たヴィトーはやがて、ニューヨークのイタリア人街でささやかな仕事を得ます。
そこにイタリア人街を牛耳るマフィア、ドン・ファヌッチが乗り込んできて、ヴィトーは仕事を奪われます。
このマフィアを「排除」したことをきっかけに、ヴィトー自身がマフィアの道を歩んでいきます。
詳しくはのちほど。
共通点②人一倍、家族愛が強い|目的のためには手段を択ばない―VIVANT編
妻・明美、そして憂助とノコル―家族を愛する男、ノゴーン・ベキ
「VIVANT」では、ノゴーン・ベキは家族を深く愛する男として描かれます。
内乱に突入したバルカで、武装勢力に妻・明美を殺され、息子・憂助を奪われますが、
絶望の淵で出会った身寄りのない赤ん坊、ノコル(二宮和也)の養父となり、彼を実の息子のように大切に育てます。
孤児院運営のためにテロを繰り返す
(イメージです)
ノゴーン・ベキはバルカで、戦災孤児を受け入れる施設をひそかに運営していました。
彼の最終目的は、バルカに眠る地下資源「フローライト」の鉱脈を手に入れ、孤児院の運営を永続させること。
地下資源が眠る土地の買収資金を賄うために、高額な報酬で「請負テロ」を繰り返していました。
戦災孤児を守るために無差別殺人を繰り返す―という「慈善家であり、犯罪者である」というベキの二面性が、ドラマの後半で明らかになります。
共通点②人一倍、家族愛が強い|目的のためには手段を択ばない―ゴッドファーザー編
イタリア人街の食料品店で働く→ドン・ファヌッチの嫌がらせで失業
さて、「ゴッドファーザー」のヴィトーはどうでしょうか。
ヴィトーは堅気時代、ニューヨークのイタリア人街にあるちいさな食料品店で働いていました。
すでに妻と、3人の男児がいました。
長男ソニー、次男フレド、そして三男マイケル。マイケルはまだ赤ちゃんです。
ある日、イタリア人街を支配するマフィア、ドン・ファヌッチが食料品店に乗り込んできて、
「俺の甥っ子を雇え」と店主にねじ込みます。
店には人を新たに雇い入れる余裕はありません。ヴィトーは店をやめざるを得なくなります。
店主に感謝を述べ、立ち去るヴィトー。
クレメンザ&テシオとつるんで裏稼業
食い扶持に困ったヴィトーは、クレメンザ&テシオというチョイ悪仲間とともに、空き巣家業を始めます。
どんどんエスカレートしていったのでしょう。
ヴィトーが裏稼業で儲けていると聞いたドン・ファヌッチは、
「俺んとこに600ドル持ってこい」とヴィトー一味をゆすります。
ビビるクレメンザ&テシオに向かって、ヴィトーは「俺に任せろ」と一言。
街の祭りの日、度胸満点のヴィトーはドン・ファヌッチに100ドルだけ渡して、渡りをつけます。
やられたらやり返す…ドン・ファヌッチを倒してマフィアの道へ
ヴィトーは単なる「交渉上手」ではありません。
自分からカタギの仕事を奪い、やむなく手を染めた裏稼業も妨害してくるドン・ファヌッチを決して許していませんでした。
100ドルを渡したあと、ヴィトーはドン・ファヌッチの自宅に忍び込み、彼を待ち伏せます。
祭りのざわめきの中、いつもの白スーツに身を包んだドン・ファヌッチが戻ってきます。
ヴィトーの右手には、ボロきれでぐるぐる巻きにした拳銃。消音のための細工のようです。
「お前、そこで何してる?」
ドン・ファヌッチの問いかけに答えず、いきなり
ズドン!
どこで覚えたのか、「別班」乃木憂助ばりの正確さでドン・ファヌッチの胸と頭を打ち抜きます。
ヴィトー、表情ひとつ変えません。
家族の生活を守るためなら手段を選ばない、恐ろしいまでの肝の据わりっぷりです。
ドン・ファヌッチ殺害直後、マイケルを膝に乗せ「愛してるよ」
ヴィトーはドン・ファヌッチを仕留めたあと、屋根づたいに逃げます。
バラバラに分解した銃の部品を家々の煙突に放り込んで「証拠隠滅」します。
我が家の前に戻ってきたヴィトー。
街はまだ祭りのさなかで、浮かれた雰囲気が漂っています。
ヴィトーは玄関前の石段に腰を下ろし、赤ん坊の三男・マイケルを膝にのせます。
そして、若いのにカッスカスにしゃがれた声でマイケルに語り掛けます。
「マイケル、父さんはお前をとても愛している。とてもね」
このシーン、どんな感情で観ればいいのか、未だにわかりません。
残虐と慈愛。
冷酷と優しさ。
ヴィトー・コルレオーネもまた、二面性を持った人物として描かれます。
共通点③息子が「陽の当たる道」を歩むことを望んだ―VIVANT編
「ノコルはバルカのリーダーになれ」
ノゴーン・ベキの望み
共通点の3つ目も、まず「VIVANT」から。
ノゴーン・ベキはバルカで「クレーデル社」という企業を設立し、闇のテロ稼業で稼いだお金をひそかに投入していました。
会社のトップは、養子ノコル。
ベキは、地下資源フローライトの採掘権をこのクレーデル社に持たせ、その強大な利権を背景にノコルを「バルカ共和国のリーダー」として押し上げようとしていました。
「ノコルに犯罪歴をつけさせるな」
ドラマの中盤でも、ノコルを含む「テント」幹部がテロの請負交渉に向かう場面で、「ノコルに犯罪歴をつけさせるな」といったセリフが飛び交っています。
結局、ノゴーン・ベキ、バトラカ、ピヨ、ノコルという「テント」大幹部のうち、生き残るのはノコルだけ。
ドラマの終わり方を見ると、
「最愛の息子には暴力組織の後継者などではなく、表舞台で堂々と活躍してほしい」
というベキの望みはどうやら叶いそうです。
共通点③息子が「陽の当たる道」を歩むことを望んだ―ゴッドファーザー編
コルレオーネ家の「希望の星」マイケル
続いて、ゴッドファーザーの「父の望み」の話です。
ヴィトーの息子たち3人のなかで、マフィア軍団・コルレオーネファミリーの非合法ビジネスに唯一手を染めていなかったのが、末の弟のマイケルでした。
なにせマイケルは、兄弟の中で唯一、大学に通っていたインテリ。
長兄のソニーには「こいつ、カレッジボーイなんだよ。ウケるだろ?」とイジられ、小僧扱いされていました。
マイケル、アメリカのヒーローに|大学中退→第二次世界大戦に従軍
そしてマイケルが異質なのは、大学を中退して海兵隊に志願入隊し、第二次世界大戦に従軍したこと。
かれは、アメリカ国内で不遇をかこっていたイタリア移民の子でありながら、
「アメリカのヒーロー」
として母国のために戦い、この経歴によって尊敬を集めていました。
シリーズ1作目「ゴッドファーザー」冒頭で、マイケルは妹・コニーの結婚式に軍服姿で参列しています。
家族の願い「マイケルだけは堅気に」
父ヴィトーも、ヴィトーの右腕・クレメンザも
「マイケルだけはまっとうな道を歩かせたい」と思っていました。
軍隊入りには反対だったようですが、「マイケルを堅気に」というのは家族みんなの願いであり、希望でした。
ヴィトー撃たれる
そんな中、ヴィトーが刺客に襲われ、瀕死の重傷を負います。
これを機に、血で血を洗う抗争が勃発します。
ヴィトー襲撃の刺客を放ったのは麻薬密売人のソロッツォ。
マイケルは、自分が交渉役としてソロッツォと会い、その場で撃ち殺すと宣言します。
父が率いるマフィア「コルレオーネファミリー」の危機に、
マイケルは自ら陽の当たる道を捨て、マフィアの一族として生きる決心をしました。
マイケル、自らマフィアの道へ―仇敵ソロッツォに報復
宣言通り、マイケルは交渉の席のレストランで、ソロッツォと用心棒のマクラスキー警部を打ち倒します。
ソロッツォの警戒とマクラスキーのボディチェックをすり抜け、ふところに拳銃を仕込む緊迫の場面は、初めて見たとき緊張のあまり吐きそうになりました。
その後、ヴィトーの後継者だった長兄のソニーは抗争の中で命を落とします。
潜伏先のシチリア島から戻ったマイケルはやがて、マフィアの首領の座をヴィトーから引き継ぎ、
「2代目」となります。
「お前は操る側の人間になれた。コルレオーネ上院議員、コルレオーネ知事…」
引退し、「顧問」となったヴィトー。
ある日、庭で昼間から赤ワインをなめながら、マイケルに語りかけます。
ファミリーの仕事は、ソニーに引き継ぐつもりだった、と。
「お前にはやらせたくなかった」
「私はファミリーを守ることに一生を捧げた。どんな大物にも操られるようなことはなかった。これが私の人生だ。悔いはないよ」
「だが、お前は操る方の人間になると思っていた。コルレオーネ上院議員、コルレオーネ知事…」
ほどなく、ヴィトーはこの世を去ります。
以来、コルレオーネファミリーを合法化することが、マイケルの宿願となります。
血塗られたファミリーのビジネスは、そう簡単に転換できません。
その苦闘と顛末を描いたのが「ゴッドファーザーPARTⅡ」「ゴッドファーザーPARTⅢ」です。
「VIVANT」のノゴーン・ベキが、息子ノコルをクリーンな世界に送り出すことに成功したのとは対照的に、
「ゴッドファーザー」のヴィトー・コルレオーネは最愛の息子マイケルを表舞台のリーダーに押し立てることができませんでした。
まとめ
「VIVANT」ノゴーン・ベキ、「ゴッドファーザー」ヴィトー・コルレオーネの共通点を3つ、書いてきました。
共通点①新天地で「新しい名前」と「望まなかった新しい人生」を得る
共通点②人一倍、家族愛が強い|目的のためには手段を択ばない
共通点③息子が「陽の当たる道」を歩むことを望んだ
それにしてもベキとヴィトー、どちらも壮絶な人生です。
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