「夜のピクニック」感想|青春小説というよりも、愛の物語

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もくじ

今回のおすすめ本「夜のピクニック」とは?

第2回本屋大賞を受賞した恩田陸さんの小説|2004年の作品

今回レビューするするのは、恩田陸さんの小説「夜のピクニック」(2004年)です。
第2回本屋大賞のグランプリ(大賞)を受賞して有名になった作品です。たまたま、この作品をおすすめするインタビューなどをいくつか見かけて、遅ればせながら読んでみました。

心が渇いてパサパサな人におすすめ!人間の心の動きを追体験できます

「夜のピクニック」の主人公は、西脇融(にしわき・とおる)と甲田貴子(こうだ・たかこ)。
2人は同じ高校に通う3年生です。そして、2人はほとんど言葉を交わしたことがありません。それはなぜか…はのちほど説明するとして。

この作品では、いろんなタイプの人間関係が描かれます。親子、きょうだい、親友、仲良し3人組、恋人、元彼女、元彼氏、なんとなく知ってる奴、などなど。

恩田陸さんのすごいところは、それぞれの人間関係で交錯する感情——好意、信頼、尊敬、羨望、嫉妬、疑い、恥ずかしさ、照れ、遠慮…そんなごちゃごちゃしたいろんな気持ちを、思わず「わかるわかる!」と唸りたくなるような表現で描写していくこと。

人の心の動きを追体験できるのが小説の醍醐味の一つだとすると、これは「ザ・小説」と言える作品です。

心が渇いてパサパサになっている人におすすめします。

あらすじ|高校生活最後のイベント「歩行祭」を舞台にした物語

誰もが特別な思いで臨む、80kmを「ただ歩くだけ」の1日

「夜のピクニック」は、地方の進学校「北高」を舞台にした物語です。

北高には修学旅行がありません。その代わり、毎年秋に全校生徒が参加する「歩行祭」というイベントがあります。

「歩行祭」は、わずかな休憩と仮眠タイムを除いて、金曜の朝8時から翌土曜の朝8時までの24時間約80キロの道のりをひたすら歩く、という地獄のような行事。
とにかくつらいんだけど、終わるとなぜか、楽しい思い出しか残らない——青春時代を1日に凝縮したような不思議なイベントです。

特に3年生にとって、歩行祭は受験モードに突入する前の「高校生活最後のイベント」。
誰もが特別な思い入れをもって、この「非日常の特別な1日」に臨みます。中には、片思いの相手にプレゼントを用意している女子も。もちろん、親友や仲良しグループで過ごす最後の時間を心から楽しみにしている人たちもいます。

主人公・西脇融と甲田貴子は…誰も知らないけど、実は異母きょうだい

登場人物たちは大抵、恋をしていたり、恋に恋をしていたり。

でも、主人公の西脇融(にしわき・とおる)と甲田貴子(こうだ・たかこ)は、色恋沙汰にあまり関心を持っていません。

なぜなら、2人にとってはお互いが最大の関心事だから。

校内ではほとんど知られていないのですが、2人は異母兄弟です。
でもこの2人、ろくに口をきいたこともありません。むしろ険悪です。
というか、西脇融が一方的に甲田貴子を憎んでいるのです。

甲田貴子を一方的に憎む西脇融、その理由は?

西脇融が異母兄弟の甲田貴子を憎む理由は、貴子が、父・西脇恒(にしわき・わたる)の浮気相手の子だから

父の浮気が発覚してこのかた、西脇家はお通夜のような雰囲気に。しかも父は融が高校に入る前に病死し、西脇家は経済的にも窮地に追い込まれます。


融は憎みます。自分の境遇を。父を。父の浮気相手である甲田聡子を。その娘の貴子を。

貴子を憎むのは筋違いで、融もそれをわかってはいるのですが、かといって貴子と打ち解けて話す気にはとてもなれません。

のびのびと育った甲田貴子

西脇恒の浮気相手・甲田聡子は会社を経営するバリバリのやり手。
2人の間に生まれた貴子は父の顔を知らないまま育ちましたが、経済的には恵まれていました。
また、母親の聡子がサバサバした性格だったこともあって、貴子は鷹揚な子に育ちます

こんな貴子との差も、融の負の感情をメラメラさせている…ということが物語の序盤で明らかになります。

「最後の歩行祭で、西脇融に話しかけよう」

かたや、人を憎むことなど知らないほんわかキャラの貴子には、異母兄弟の融に対する負の感情はありません。融と話してみたいのですが、いつも鋭い目で睨みつけられ、すくんでいます。
高校生活最後の歩行祭のどこかで、西脇融に話しかけて、奇妙な緊張関係を解こう――甲田貴子はそんな決意を胸に秘めて、歩行祭に臨みます。

「夜のピクニック」のおすすめポイント!

榊杏奈が語る「西脇融への愛」

「夜のピクニック」の登場人物はみな、恋をしたり、恋に恋していたりするのですが、

そのなかで主人公2人とともに異色なのが榊杏奈です。

榊杏奈は、甲田貴子の友達です。高校2年が終わったあとの春休みに一家でアメリカ・ニューヨークにわたり、北高の同級生とは離れ離れになっています。

そしてこの榊杏奈が好きだった相手が、西脇融でした。

榊杏奈の不思議な告白「覚えていてくれなくていい。忘れていい」

榊杏奈は日本を去る前に、西脇融に自分の気持ちを打ち明けます。
この「告白」が、とても不思議なのです

「夜のピクニック」の中で、いちばん印象に残ったのがこの場面でした。

2人のやり取りを抜粋します。

西脇君はあたしのこと、覚えててくれるかなあ。

ー分からない。俺は、できるかどうか分からない約束はしないよ。

違うよ。覚えていてくれなくていい。忘れていい。

ーなんで?

だって、近くにいなければ、忘れられるのが当然でしょう。

—でも、忘れられたら、もう存在しないのと同じじゃん。それはつらくないの?

あたしは覚えてるもの。

あたしも、人に、できるかどうか分からないようなお願いはしないし、人の記憶に頼ったりしないよ。でも、あたしは覚えている。あたしの記憶はあたしだけのもの。それでいいんだ。

恩田陸「夜のピクニック」(新潮社、2004年)

この告白は、何のため??

ふつう、この手の告白は、「相手と関係を結びたい」という意思表示です。

一緒にいてほしい、付き合ってほしい、まずはお友達から…何であれ。

でも榊杏奈は「私のことは忘れていい。私は覚えている。それだけでいい」と言います。

いつかアメリカから帰ってきたら会ってほしい、とか、離れ離れになっても連絡するからね、とか、つながりを保ちたいという意思が、そこにはありません。

なんなんだろう、この謎の告白は。そもそも、そこまで達観しているのなら、自分の思いを伝える必要さえなかったのでは??とずっと不思議でした。

でも、「夜のピクニック」を読み終わったあと、この告白の意味が分かりました。

このとき榊杏奈は、自分の恋心を伝えたのではなく、愛を伝えたのです

恋と愛の違いについて|エーリッヒ・フロムの「愛するということ」より

恋と愛の違いについては、

エーリッヒ・フロムの名著「愛するということ」に明確に書かれています。

フロムの考察によると、

恋は「自分の思いを成就させたい」という気持ち。利己的な感情です。

これに対して、

愛は「一切の見返りを求めず、相手のために行動する」という利他の決意です。感情ではなく、意志です。

榊杏奈が示した「西脇融への愛」とは??

愛とは、意志であり、行動です。

榊杏奈は、西脇融がほんとうに望んでいることは何かを知っていました。
そして、西脇融の望みを叶えるために行動します。歩行祭の日に。

でも、榊杏奈はすでに日本を離れていて、ニューヨークにいます。太平洋を隔てて、愛する西脇融の望みを叶えるために、ある行動を起こすのです。

こんなこと、愛がなければできません。

もちろんそれは、読んでのお楽しみ。

愛の物語「夜のピクニック」|心がパサパサの人におすすめの小説です!

「夜のピクニック」は、よく「青春小説」と形容されているようです。

冒頭にも書きましたが、この小説では親子、きょうだい、親友、恋人同士などさまざまな人間関係が描かれます。そこで交錯する感情——好意、信頼、尊敬、羨望、嫉妬、疑い、恥ずかしさ、照れ、遠慮…そんなごちゃごちゃしたいろんな気持ちが、思わず「わかるわかる!」と唸りたくなるような表現で描写されています。

そのあたりの筆致の巧みさが、「青春小説」という評価につながっているのかもしれません。

僕にとって印象的だったのは、好きな人のために行動しながらも「私のことは忘れていい」と言い切る榊杏奈の存在でした。

人を愛するということ」について教えてくれる「夜のピクニック」、おすすめです。

パサパサに渇いた心に浸み込むような作品だと思います。

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「夜のピクニック」kindle版もあります!

「夜のピクニック」は電子書籍でも読めます。

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劇場版のキャストは石田卓也さん、多部未華子さん、加藤ローサさんら

「夜のピクニック」は2006年に映画化されました。

西脇融役は石田卓也さん、甲田貴子役は多部未華子さん。

そして榊杏奈役は加藤ローサさんが演じています。

劇場版は、AmazonプライムビデオやHuluで見られます。

Amazonプライムビデオ


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Hulu


 Huluは月額1026円。iTunes Store 決済の場合には、月額 1050 円(税込)になります。

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