この記事でわかること
・経済活動を弱らせる所得税は、むかし「禁じ手」だった
・世界初の所得税&源泉徴収を導入したのはイギリス|ナポレオン戦争の戦費調達のため
・日本が所得税の源泉徴収を導入したのも、やはり戦争の時代
・税に歴史あり|紆余曲折をへて「いま」がある
歴史を学ぶ意味とは何でしょうか?

▼この記事はこちらの続きです!

それは「現状が当たり前ではない」ことを知るため
田中靖浩さんの「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」(日本経済新聞出版社、2018年)というとても面白い本があります。
経済人と芸術家の多彩なエピソードを通じて、会計の仕組みがどう発展してきたかがよくわかります。
巻末の「おわりに」の中で、田中さんはこんなことを書いています。
私たちは歴史を学ぶことによって、あらゆるものごとが「普遍的・絶対的な存在ではない」ことを知ることができます。
だからこそ守るべきところは守りつつ、変えるべきところについては「変える勇気」をもたねばなりません。
田中靖浩さん「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」(日本経済新聞出版社、2018年)
なぜ歴史を学ぶのか?
という問いに対して、これほど腹に落ちる解はない、と思います。歴史を知らないと、現状を対象化できない。一歩引いて見ることができない。
「これはおかしいのではないか?」「このままでいいのか?」
という疑問すら生まれない。過度に変化を恐れるようになったり、思考停止して現状を是認したりすることになりかねない。
…というわけで、所得税の歴史をちょっとだけひもときます!![]()
所得税はイギリス発祥

きっかけはナポレオン戦争
公認会計士の安部忠さんの著書「税金ウソのような本当の話」(講談社、1995年)によると、世界初の所得税は1799年、イギリスで導入されました(1798年説もあるそう)。
イギリスはそれまで、資産税(地租など)、消費税(酒税など)で国の財政を賄っていました。
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この記事の参考書
・安部忠さん「税金ウソのような本当の話」
所得税?ダメ、ゼッタイ。――イギリス議会は断固反対
産業が発展して国が栄えるにつれ、国の支出に対する需要も大きくなります。
政府としては税収を増やしたい。
でも所得税の導入が議論の俎上に載るたび、議会は

導入はまかりならん!
との結論を出しました。
理由は「所得に課税すれば国民の労働意欲が阻害されるから」

その理由はこれ。
所得は消費と資産形成の源泉であり、所得に課税すれば国民の労働意欲が阻害される。消費活動や資産形成活動を弱める結果になり、世の中の活動全体を弱めるタブーであると考えたからである。
安部忠さん「税金ウソのような本当の話」(講談社、1995年)
所得税、消費税、資産税がそれぞれ経済活動にどんな影響を及ぼすかについての安部さんの指摘は、こちらの記事でご紹介した通りです。

転機は1799年「フランスから怪物が攻めてくる!」

そんなイギリスが所得税導入に踏み切った1799年、ヨーロッパでは何が起きていたのでしょうか。
その10年前の1789年、フランスで市民革命が起きています。
フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」は、このフランス革命のころに義勇兵が歌っていた軍歌だというのは有名な話ですね。革命勢力はブルボン王朝を終わらせました。国王ルイ16世をギロチン台に送りました。
でも直ちに「民衆の時代」が来たわけではありません。その後、国内情勢は大混乱します。
結果、ナポレオン・ボナパルトという超ド級の独裁者を生むに至ります。
ナポレオンは「フランス革命を輸出する」という冗談のような大義名分をかかげて周囲の国々に攻め込みます。
このころ、イギリスを含むヨーロッパ諸国は、対ナポレオン戦争で大忙しだったのです。
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対フランス戦費調達のため、やむなく所得税導入|併せて源泉徴収も導入
戦争にはお金がかかります。それも巨額の。

戦費調達のためやむなし
ということで、イギリスのピット政権は、貴族階級を対象に税率10%の所得税を導入しました。このとき、源泉徴収の仕組みも併せて取り入れました。
戦争が始まると所得税を徴収、終わると廃止…を繰り返すように
安部さんはこう書いていいます。
これが所得税の始まりである。所得税を導入する口実に、戦争から国を守るという大義名分は議会の納得を得やすかった。イギリスはこれ以来、戦争が始まると所得税を徴収し、戦争が終わると所得税を廃止する、というパターンを繰り返す。
安部忠さん「税金ウソのような本当の話」(講談社、1995年)
この現象は
戦争が終わっても、財政需要の増大を理由に所得税を継続したがる政府を国民は許さなかった
安部忠さん「税金ウソのような本当の話」(講談社、1995年)
ことによります。
第2次大戦後、所得税を廃止できなかったのは「冷戦」が始まったため
しかし第2次世界大戦が終わったあと、イギリスは所得税を廃止しませんでした。
東西冷戦という新たな戦争がすぐに幕を開けてしまったからです。
明治初期の日本にも、所得税はなかった|主力は資産税

資産税=地租で税収の大半を賄おうとした明治政府
1875年(明治8年)に始まった日本の近代税制は、資産税である地租で税収の大半を賄う、という手法で始まりました。地租とは土地に対する税。いまの固定資産税にあたります。
税率は地価の3%。
こちら国立公文書館のサイトに、当時の地租改正条例の資料写真が載っています。
1991年に導入された同じ名前の「地価税」は税率が0・3%だった。単純に比較することはできないとは思うけど、明治初期の地価税はずいぶん高かったことがうかがえます。
(ちなみに現代の地価税はその後0.15%に引き下げられ、1998年に徴収が「凍結」されています)
地租3%は重税だった!農民の一揆も続発
農民は作物の出来にかかわらず3%の地租を納めないといけないから、凶作の年は苦しみました。一揆も続発したといいます。
政府は2年後の1877年(明治10年)には地租を2.5%に引き下げています。
資産税を引き下げ、税の種類を増やす方向にかじを切っていきます。
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ついに日本も所得税導入|高額納税者ランキングの初代王者は?
所得税が導入されたのは1887年(明治20年)。
対象は年収300万円以上の事業家ら高額納税者12万人弱で、税率は最高3%。
この年の高額納税者ランキングは、こうでした。
1位は岩崎久弥(岩崎弥太郎の息子)でした
1位 岩崎久弥(岩崎弥太郎の息子) 約70万円
2位 岩崎弥之助(岩崎弥太郎の弟) 約25万円
3位 毛利元徳(長州藩のラストエンペラー) 17万円台
三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎はこの2年前にこの世を去っています。
岩崎家の2人のほかは、元大名のお歴々が上位に名を連ねています。
新一万円札の顔で「日本の資本主義の父」と言われる渋沢栄一の納税額は10万円弱だったそうです。
この話、国税庁のトリビアサイトから。
ちなみにこの年の税収は6割超が地租。所得税収入は1%台にとどまっています。これも国税庁のサイトに詳しく載っています。
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日本の所得税源泉徴収の導入も、やっぱり戦争がきっかけ

効率的な戦費調達法として「ナチスドイツに倣った」という説も
1940年には、「所得税の源泉徴収」が始まります。
きっかけは、やはり戦争。
日本は1937年、中国との全面戦争に突入しています。
源泉徴収制度は、戦費を効率的に集めるために導入されたというのが定説です。
ナチスドイツに倣ったというから、うなずける話です。
軍事費用をかき集めるために所得税をかき集める、という構図はイギリスとまったく同じ。
先ほど書いた通り、そのイギリスは第2次世界大戦が終わった後、冷戦に対応する必要から所得税を廃止できませんでした。
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大戦後も所得税を廃止できなかったイギリス。では日本は?

日本はどうなったか。
――やっぱり、所得税は存続しました。
やっぱり所得税存続|敗戦で資産税や消費税を確保できなかったから
その理由は、敗戦で傷ついた日本では、資産税や消費税を確保できるめどが立たなかったから。
安部忠さんは「税金ウソのような本当の話」にこう書いています。
戦争は終わったのだから所得税はやめてもよかった。しかし地主は農地解放で土地を失い、財閥は解体してカネ持ちは極端に少なくなってしまった。これでは資産税は十分に機能しない。一時は消費税の導入も検討されたが、一面焼け野原の国に消費は少ないことからこれも見送られた。結局、所得税しか税収を確保する道はなく、昭和二十四年に施行された所得税中心のシャウプ税制が現行税制の基本となったのである。
安部忠さん「税金ウソのような本当の話」(講談社、1995年)
税制に歴史あり|今の形が「絶対不変の正しい姿」じゃない

人に歴史あり。所得税にも歴史あり。
何が言いたかったかというと、当たり前のように僕らの生活に根差している税制にも、いまの姿になるには紆余曲折があり、べつに「絶対不変の正しいもの」ではないということです。
ちなみに「税金ウソのような本当の話」は、源泉徴収制度でガッチリ捉えられ、節税の裁量がないサラリーマンに向けて「現状打破の一手」を指南する本です。
すべてのサラリーマン・会社員におススメします!
あらためて、今回の参考書
・安部忠さん「税金ウソのような本当の話」
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