「蜜蜂と遠雷」感想|共鳴する天才ピアニストたちの化け物ぶりにゾクゾク

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もくじ

恩田陸さんの小説「蜜蜂と遠雷」はどんな話?あらすじを簡単に

国際ピアノコンクールに挑むピアニストたちの物語

「蜂蜜と遠雷」は、日本で開かれる国際ピアノコンクールが舞台です。
音楽家として身を立てることを夢見て、世界各国から100人の若手ピアニストが参加します。
主な登場人物は、3人の天才ピアニストと、遅れてきた新人ピアニスト

彼らがどんな人物なのかは、のちほどあらためてご紹介します。

舞台は「芳ヶ江国際ピアノコンクール」|13日間の長丁場

戦いの舞台は「芳ヶ江(よしがえ)国際ピアノコンクール」。
優勝の栄冠をつかむまでの道のりは、とにかく過酷です。コンテストはこんなスケジュールで進みます。
課題曲もいっしょにご紹介します。

コンクールのスケジュール

第1次予選(5日間)

演奏時間は20分。第1次予選で、100人から一気に24人にまで絞られます。

第2次予選(3日間)

演奏時間は40分。第2次予選から先に進めるのは、24人中12人です。

第3次予選(2日間)

演奏時間は60分です。ここまでくると、もはやリサイタル。第3次予選のあとの本選には、12人中6人が進めます。

本選(2日間)

本選までたどり着いた6人は「入賞」扱い。最後は、オーケストラとの協演です。


途中、1日の休息日をはさむので、本選まで勝ち残ったピアニストは13日間もの長丁場を戦い抜くことになります。とにかく過酷なスケジュール。
こんなコンクールの実態も、この小説を読んで初めて知りました。

モデルは「浜松国際ピアノコンクール」

芳ヶ江国際ピアノコンクールのモデルは、静岡県浜松市で3年に1回開かれる「浜松国際ピアノコンクール」だそうです。
恩田陸さんはこの作品を書くために、「構想12年、取材11年、執筆7年」を掛けたと言います。
浜松国際ピアノコンクールは、なんと3回も通い詰めたそう。
たしかに、3年に1度のコンクールを何度も取材するとなると、それだけの年月がかかります。。

「蜜蜂と遠雷」は甲子園、高校野球が好きな人におすすめ!

晴れの舞台での全力プレー、勝者と敗者の残酷なコントラストはまるで甲子園

晴れの舞台で、鍛錬を積んだ若者がその技術を全力で表現する。その姿はとても美しく、いつまでも見ていたい、この時間が終わってほしくない——。
でも、最後には残酷にも「勝敗」が決まり、舞台に残る者、舞台を降りる者が選別される。
長丁場の戦いの中で、「全力プレー」と「勝者と敗者の選別」が繰り返され、最後に優勝者が決まる。
1回負けたら終わり。最後まで負けないのは1人だけ。
「天才」「怪物」と呼ばれるプレイヤーであっても、勝者になれるとは限らない。

「蜂蜜と遠雷」で描かれるピアノコンクールは、甲子園とそっくりです。
高校野球ファンなら、間違いなく楽しめる作品だと思います。

クラシックやピアノ曲に詳しくなくても楽しめます

「蜂蜜と遠雷」は2段組で508ページにも及ぶ大作ですが、読み始めると止まらず、長さを感じさせません。僕はクラシックにまったく詳しくありませんが「音楽をここまで言葉で表すことができるのか!」と感服しながら読みました。

4人のピアニスト|風間塵、栄伝亜夜、マサル、高島明石

「蜂蜜と遠雷」の主な登場人物は、こちらの4人。風間塵、栄伝亜夜、マサルの3人はいずれも天才的な技量の持ち主。この3人に加えて、遅れてきた新人・高島明石の奮闘も描かれます。

1人ずつご紹介します。

風間塵|奔放な自然児、野性の天才児

風間塵は「はじめの一歩」のウォーリータイプ

小説のタイトル「蜂蜜と遠雷」の由来にもなっているのが、型破りな天才・風間塵(かざま・じん)です。
風間塵は正規の音楽教育を全く受けていない「野性の天才児」です。
ボクシング漫画「はじめの一歩」に登場する野性児・ウォーリーをほうふつとさせます。

ウォーリーは鉄壁の世界王者、リカルド・マルチネスをかつてないほど追い詰めますが、最後は差を見せつけられて敗れました。決着のあと、「楽しんだ方が勝ち。だから僕の勝ちだ」と言い残してリングを去ります。

誰よりも純粋に「演奏を楽しむ」ところも、風間塵はウォーリーとよく似ています。
果たして、風間塵は頂点をつかむことができるのか??

パリから来た養蜂家の子

風間塵は16歳養蜂家の父の仕事を手伝っています。日本人ですが、フランスからのエントリー。
生活の拠点はパリにあるようですが、養蜂家は旅ぐらし。各地を転々とする毎日で、学校にも通っていません。自分のピアノすら持っていません。行く先々でピアノを借り、腕を磨いていた…という異色の経歴の持ち主です。

師匠ユウジ・フォン=ホフマンの推薦状

風間塵は養蜂家の仕事で各地を転々としながらも、ユウジ・フォン=ホフマンという音楽家に指導を受けていました。
ユウジ・フォン・ホフマンは誰もが憧れるピアノの巨匠。芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員の中にも教え子がいます。

異端児・風間塵が審査員に拒絶され、不当に落選の憂き目にあうことがないよう、ホフマンは「推薦状」を添えて風間塵をコンテストに送り込みます。こんな内容です。

カザマ・ジンが「ギフト」か「災厄」かを決めるのは我々

 皆さんに、カザマ・ジンをお贈りする。文字通り、彼は『ギフト』である。恐らくは、天から我々への。だが、勘違いしてはいけない。試されているのは彼ではなく、私であり、皆さんなのだ。

 彼を『体験』すればお分かりになるだろうが、彼は決して甘い恩寵などではない。彼は劇薬なのだ。中には彼を嫌悪し、憎悪し、拒絶する者もいるだろう。しかし、それもまた彼の真実であり、彼を『体験』する者の中にある真実なのだ。

 彼を本物の『ギフト』とするか、それとも『災厄』にしてしまうのかは、皆さん、いや、我々にかかっている。

ホフマンの推薦状は、本の中表紙にも掲載されていて、嫌が応にもこれから始まる物語への期待を高めてくれます…!

栄伝亜夜|「消えた天才少女」7年ぶりに表舞台へ

栄伝亜夜は「美空ひばり」タイプ

2人目の天才は栄伝亜夜(えいでん・あや)です。
子どものころから完成品で、大人になったらもっと凄い。栄伝亜夜は美空ひばりのようなタイプです。
たとえが古いですね…僕も、美空ひばりの少女時代など、もちろんリアルタイムでは見ていないのですが。
長丁場のコンクールを通じて、栄伝亜夜は覚醒していき、別人のようなピアニストへの化けていきます。

CDデビューもしていた元・天才少女

幼少時代から母のもとで英才教育を受けていて、国内外のジュニアコンクールで優勝し、CDデビューもしていたという「天才少女」でした。
しかし、13歳のときに転機が訪れます。保護者であり、最初のピアノの師であり、ピアニスト栄伝亜夜のマネージャーでもあった母が急死するのです。

13歳で母を亡くし、コンサート直前に失踪

母を愛し、母を喜ばせたいと願ってピアノを弾いていた栄伝亜夜は、演奏する理由を失います。
オーケストラと協演するコンサートを迎えたある日。リハーサルを終えたあと、栄伝亜夜は外に逃げ出します。この「すっぽかし」事件により、栄伝亜夜はピアニストとしてのキャリアを自ら断ちます。

音大の指導教授の勧めで「なんとなく」エントリー

高校は普通科へ。その先の進路を迷っていた時、母と音大の同級生だったという音大学長の誘いを受け、音大ピアノ科に進みます。そして指導教授に勧められるままに、芳ヶ江国際ピアノコンクールにエントリーするのです。

序盤で脱落すれば「消えた天才少女、ただの人になっていた」と叩かれることは必至。
結果を残せば「天才少女のカムバック」と騒がれることも明白。

栄伝亜夜がコンクールに出場することは、ゴシップにさらされるリスク100%なのですが、本人はどこ吹く風。覚悟を決めて出る、という風でもなく、「なんとなく」出場を請け合う…そんな感じです。

読んでいる方が、大丈夫なの??と気をもむほどの天然っぷりなのです。

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール|華のある生粋のスター

マサルは「クリスティアーノ・ロナウド」タイプ

3人目の天才は、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール
マサルは顔の彫りが深くて、180センチを超える長身。ピアノのほかにハイジャンプ(走り高跳び)の経験もあり、その体は筋肉隆々。立ち姿だけで人目を引きつける、生粋のスターです。

イケメン、モデルのようなボディ、完璧なテクニック…
サッカー界の大スター、クリスティアーノ・ロナウドをほうふつとさせるキャラクターです。

幼少期に「アーちゃん」の勧めでピアノに触れる

マサルは日本、フランス、ラテンの混血児です。主にフランスで育ち、アメリカにわたって名門・ジュリアード音楽院に通っているという音楽エリート
幼少期にいっとき、日本で暮らしていました。このとき、「アーちゃん」という少女とたまたまピアノの話で意気投合します。アーちゃんに誘われるままに、ピアノ教室に飛び入り参加した——というのがピアノに触れたきっかけ。

綿貫先生とアーちゃんとの約束

アーちゃんには、「マーくん」と呼ばれていたマサル。ほどなく親の仕事の都合で、フランスに戻ることになります。ピアノ教室の綿貫先生は、こう言ってマサルを送り出します。

マーくんは素晴らしい音を持ってるよ、フランスに行ったら、ピアノをちゃんと習ってほしいなあ。もし習えなくても、音楽を愛してね。きっと君の財産になるから。

アーちゃんも泣きじゃくりながら、「ピアノ弾いてね、約束だよ」と告げ、ト音記号のついた楽譜入れのカバンを餞別に贈ります。

アーちゃんは栄伝亜夜だった!コンテストで劇的な再会

マサルは約束通り、フランスに戻ってから本格的にピアノを始めます。

マサルはこの楽譜入れのカバンをお守りのように大切にしていて、芳ヶ江国際ピアノコンクールに出場するときも、荷物の中に忍ばせています。

マサルはコンクールの第1次予選で栄伝亜夜の演奏を聴き、気づきます。栄伝亜夜があのときの「アーちゃん」だと。コンクールのさなか、マーくんとアーちゃんは劇的な再会を果たします。

高島明石|28歳妻子持ち、異色の出場者

高島明石は「立川志の輔」タイプ

高島明石は異色の出場者です。楽器店勤務の28歳。妻と子供もいます。
27歳の時に脱サラし、立川談志に弟子入りした落語家・立川志の輔を思い出します。
志の輔は並外れた努力で力をつけ、「古典落語50席を自在に演じられるようになること」という2ツ目昇進の条件をあっという間にクリアします。
このエピソード、弟弟子・立川談春の自伝「赤めだか」にちらっと出てきます。

楽器店勤務の傍ら、練習時間を捻出し出場

コンクール出場者の中では最年長に近い高島明石。
音大時代にコンクールの入賞歴がありますが、プロのピアニストの道には進まず、就職してサラリーマンになりました。仕事をしながら、合間を見つけては練習し、1年間の準備期間を経てコンクールに臨みます。

高島明石は、周りの現役音楽エリートには鳴らせない「生活者の音楽」を奏でるのだ、と意気込んでコンテストに臨みます。このコンテストが、音楽家として最後の舞台だという覚悟も決めていました。

「最後の舞台」と決めて臨んだコンテスト、しかし…

高島明石は、天才少女時代の栄伝亜夜のファンでもありました。
コンクールで栄伝亜夜の復活と覚醒を目の当たりにした高島明石は衝撃を受け、「これで最後」という思いが変化していくのを感じます。

コンテスト出場者はお互いライバルなわけですが、お互いの演奏に影響を受け、それによって成長し、変わっていく――そんな一面が描かれるのも「蜂蜜と遠雷」の面白いところです。

「蜂蜜と遠雷」人物相関図

登場人物が多い「蜂蜜と遠雷」。主な登場人物の相関図をまとめてみました。

ピアニスト4人以外の登場人物

ユウジ・フォン=ホフマン

誰もが憧れるピアノの巨匠。めったに弟子を取らないことでも有名でした。
ましてや、弟子のために「推薦状」を書くなど前代未聞。ホフマンがそこまで推す風間塵とは何者なのか、と審査員たちをざわつかせます。芳ヶ江国際ピアノコンクールが始まる前に、この世を去っています。

菱沼忠明

ホフマンの友人で、著名な作曲家。芳ヶ江国際ピアノコンクール第2次予選のために、課題曲「春と修羅」を書き下ろします。ホフマンの奥さんとも懇意で「めったに弟子を取らないホフマンが、旅暮らしの風間塵のために、自ら出向いて教えに言っていたらしい」など、ホフマンに憧れる審査員たちを歯噛みさせるような情報をもたらします。

ナサニエル・シルヴァーバーグ

芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員で、マサルの師匠。ホフマンの弟子でもあります。
審査員仲間の嵯峨三枝子とは元夫婦。コンクール中、栄伝亜夜にぞっこんになったマサルに対し、「恋にうつつを抜かしている場合か!」と喝を入れようとしますが、横に元妻の嵯峨三枝子がいたので気まずくなり、ぐっと飲み込みます。
クレバーなマサルには、そんな師匠の心の動きがぜんぶ見えている——という描写もあって面白いです。

嵯峨三枝子

芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員。第1次予選に先立って開かれたオーディションでも審査員を務めていて、風間塵の演奏を聴いていました。才気ばしった独創的な演奏に心をかき乱され、「私は絶対にこんなの認めない!」と怒り出します。
オーディション後に見たホフマンの推薦状には「中には彼を嫌悪し、憎悪し、拒絶する者もいるだろう」の一言。嵯峨三枝子は、自分が「ホフマンの予言通り」のリアクションをしてしまったことに呆然とします。

タイトル「蜜蜂と遠雷」の意味は?

どちらも、風間塵が聞いた「自然の音」が由来

小説のタイトル「蜜蜂と遠雷」は、どちらも風間塵が聞いた「自然の音」にちなんでいます。

パリの交差点の真ん中で、蜜蜂の羽音を聞く

物語の序盤、パリの交差点の真ん中で風間塵がふと立ち止まって空を見る場面があります。
風間塵の登場シーンです。
風間塵は並外れた聴覚の持ち主。彼にはこの時、蜜蜂の羽音が聞こえたのような気がして空を見上げたのです。

冬空の芳ヶ江で聞いた、遠い雷鳴

第3次予選の自分の出番が来る前、風間塵はふと外の空気が吸いたくなって、コンクール会場の外に出ます。季節は冬。外は雨が降っています。当てもなく歩き回る風間塵。その時、遠いところで低く雷が鳴っているのが聞こえてきます。

作品の中で、「遠雷」がハッキリ登場するのはこの場面だけ…なのですが、ほかにも思い当たる箇所がもうひとつ。小説の冒頭です。

小説冒頭の章「テーマ」に登場する遠雷と蜜蜂

この小説は、「テーマ」と題した抽象的な一節から始まります。
この文章に、遠雷蜜蜂が登場します。

遠雷の描写

新たな音が頭上から降ってきて、たちまちそちらに関心を奪われた。
そう、まさに驟雨のように、空から。

波であり振動である何かが、世界にあまねく響き渡っていた。

その響きにじっと聴き入っていると、自分の存在そのものがすっぽりと包まれているような気がして、心が凪いで来るのを感じた。

蜜蜂の描写

今、改めてこの時の光景を見ることができたならば、きっとこう言ったことだろう。
明るい野山を群れ飛ぶ無数の蜜蜂は、世界を祝福する音符であると。
そして、世界とは、いつもなんという至上の音楽に満たされていたことだろう、と。

蜜蜂の羽音と遠雷の轟きは「音楽に満ちた世界」の象徴

冒頭のこのパートは、たぶん、作品を仕上げて、最後に書いたのではないかと思われます。なぜならこの抽象的な文章は、世界は音楽に満ちているという、この小説に通底するテーマを凝縮した一節だからです。

読みどころ①風間塵と栄伝亜夜の音楽を通じた対話

風間塵栄伝亜夜は、同じ感覚を持った者同士でした。お互いの演奏を通じて、2人は共鳴していきます。2人の「音楽を通じた対話」はとてもスリリングでエモーショナルです。

課題曲「春と修羅」のカデンツァをどう弾くか?

第2次予選では、作曲家・菱沼忠明が書き下ろした「春と修羅」が課題曲のひとつ。
タイトルが示す通り、宮沢賢治の有名な詩をモチーフにしています。この曲にはカデンツァ(自由な即興演奏)のパートがあり、それぞれのピアニストが宮沢賢治の詩の世界、菱沼忠明が曲に込めたイメージをどう表現するか工夫を凝らします。

風間塵は「暴力的な自然」を表現

風間塵は、観客の背筋を凍らせるような、凶暴性を帯びたカデンツァを披露します。
冷害、噴火、地震、津波…宮沢賢治が生きた東北は、当時も、昔も、いまも自然災害続きです。
風間塵は「春と修羅」カデンツァで、自然の脅威=「修羅」を表現しました。

栄伝亜夜の返答は「大地の癒しと豊かさ」

続いて舞台に上がった栄伝亜夜が「春と修羅」のカデンツァで表現したのは、自然の猛威を受け止め、それでも絶えず新たな生命を生み出す大地の癒しと豊かさでした。聴き手の頭の中には、駆けていく子供、青い草原、草の匂い、安心感、安堵感…そんなイメージが広がります。

ライバルの演奏を糧にしてしまう栄伝亜夜の底知れなさ

カデンツァ(即興)といっても、本当に即興で弾くピアニストはいません。曲の解釈に時間をかけ、どう弾くかを事前に決めておき、入念に練習した上で本番に臨みます。
ところが栄伝亜夜は、「春と修羅」のカデンツァをどう弾くか、決めていませんでした。
そして、自分の前に舞台に上がった風間塵の暴力的なカデンツァを聴き、それに呼応するかのような演奏をまさに即興で披露します。

ライバルの演奏さえ自分の糧にしてしまう、栄伝亜夜の底知れなさが発揮された瞬間です。

読みどころ②風間塵に刺激され、覚醒する栄伝亜夜

風間塵の望み「音楽を外に連れ出す」

風間塵にとって、自然界に満ちた音はすべて「音楽」でした。
蜜蜂の羽音も、遠雷の轟きも。
作曲家が書いた「楽曲」は、自然界に元々あった音楽をとりだして、譜面に書き記したもの。
演奏は、その譜面をホールという狭い箱の中で再現したもの。

風間塵の望みは、譜面やホールに閉じ込められた音楽を、外の世界に連れ出すことでした。
師匠のユウジ・フォン=ホフマンには、こう言われていました。

よし、塵、おまえが連れ出してやれ。(中略)

ただし、とても難しいぞ。本当の意味で、音楽を外に連れ出すのはとても難しい。私が言っていることは分かるな?音楽を閉じ込めているのは、ホールや教会じゃない。人々の意識だ。綺麗な景色の屋外に連れ出した程度では、「本当に」音を連れ出したことにはならない。解放したことにはならない。

音楽を外に連れ出したいなら、同志を探しなさい、とも言われていました。
コンテストを通じて風間塵は、栄伝亜夜こそがその「同志」だと直観します。

栄伝亜夜も「自然の音楽」を聴いていた

栄伝亜夜もまた、世界に満ちている音楽を聴くことができる少女でした。

雨音は「仔馬のギャロップ」


少女時代、家の物置小屋のトタン屋根に落ちる雨粒のリズムが、仔馬のギャロップに聞こえていた、というエピソードが序盤で登場します。

なんとなく参加した栄伝亜夜が、自分の生きる道を決めるまで

栄伝亜夜はコンテストの中で、風間塵と共鳴し、自分がかつて「自然界に満ちた音楽を聴いていた」ことを思い出します。この先どうするのか、はっきりした意志もないままコンテストに参加していた栄伝亜夜は、自分がいかに音楽を愛していたか、音楽に包まれていたかを思い出し、自分の生きる道を決めます。

真の主人公は、風間塵ではなく栄伝亜夜?

風間塵という異端の天才に刺激され、栄伝亜夜覚醒していく――「蜜蜂と遠雷」の後半では、そんなストーリーが展開していきます。

小説のタイトルは風間塵にちなんていますが、真の主人公は、栄伝亜夜なのではないか。そんな印象を持ちました。

気になる結末|順位は?結果は?|栄伝亜夜は優勝できたのか…?

読んでいるうちに、コンテストの結果はもはや「どうでもいい」、いや、「知りたくない」という気持ちになってきます。恩田陸さんは、もしかしたらコンテストの最終結果を書かずにこの小説を締めくくるのではないか…そんな風にも思いながら読み進めていきました。

やっぱりそれでも気になるコンテストの結果。
結末はどうなるのか、描かれるのか、描かれないのか…。ぜひ、手に取って確かめてみてください!

「蜜蜂と遠雷」の楽しみ方は?

「蜜蜂と遠雷」はオリジナルの小説はもちろん、コミック版、映画版もあります。

小説は幻冬舎刊|直木賞&本屋大賞をダブル受賞

小説「蜜蜂と遠雷」は幻冬舎から刊行されています。2017年に直木賞本屋大賞をダブル受賞しています。文庫も出ていますよ。

コミック版は全2巻|作画は皇なつきさんです

コミック版「蜜蜂と遠雷」は2019年に刊行されています。作画は皇なつきさんです。

kindleアンリミテッドなら小説&漫画どちらも読める

「蜜蜂と遠雷」は小説版もコミック版も、電子書籍で読めます。

kindleアンリミテッドなら、30日の無料体験つき。無料期間終了後は月額980円です。

まとめ読みなら、サブスク型のkindleアンリミテッドがおすすめです!

「蜜蜂と遠雷」kindle版を無料体験

映画版は2019年公開|気になるキャストは?

「蜜蜂と遠雷」映画版はは2019年に公開されました。気になるキャストは…?

風間塵役|鈴鹿央士さん

栄伝亜夜役|松岡茉優さん

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール役|森崎ウィンさん

高島明石役|松坂桃李さん

小説のイメージに近い感じがします。風間塵の心がゾワゾワするような演奏、栄伝亜夜の覚醒していくさまを、音楽でどう表現するのか??制作陣は大変なプレッシャーだったろうな…と想像します。

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