「羊と鋼の森」感想|新米ピアノ調律師を見守る先輩の優しさが心に沁みる

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もくじ

小説「羊と鋼の森」はどんな話?あらすじを簡単に

「ピアノの音色の美しさ」を追求する調律師・外村(とむら)の物語

羊と鋼の森」の主人公・外村(とむら)は、北海道の楽器店に勤める新人調律師です。
外村は高校2年の時、神業のような技術を持つ調律師・板鳥宗一郎がチューニングしたピアノの音色に魅了され、調律師の道を選びます。

後半は、高校生の双子・和音と由仁との交流が軸

物語の後半は、調律師としてたびたび自宅を訪れていた高校生の双子和音(かずね)由仁(ゆに)との交流を軸に進みます。

突然、ピアノが弾けなくなる由仁

和音由仁は2人とも、本格的にピアノを学んでいるピアニストの卵
ところがある日、由仁は突然、ピアノが弾けなくなります。その原因については詳しく描かれませんが、おそらくイップスのようなものでしょう。

この事件が、和音&由仁のピアノ人生の契機に

この出来事を機に、和音由仁はそれぞれ、これからピアノとどう向き合っていくのか悩み、やがて結論を出します。
由仁が選ぶ意外な道、揺らいでいた和音が覚悟を決めるとき…
このあたりはネタバレになっちゃいますので、これ以上書くのは控えます…!

タイトル「羊と鋼の森」はどんな意味?

「羊と鋼」はピアノのこと

「羊と鋼」はピアノのことです。

羊=ピアノの弦を叩く「羊毛フェルト製ハンマー」

鋼=羊毛製ハンマーが叩く「鋼の弦」のこと

ふたを閉めていると外からは見えませんが、ピアノは鍵盤を叩くと、その裏側で羊毛フェルト製のハンマーが動き、鋼でできた弦を叩く構造になっています。
ハンマーが弦に触れることで音が出ます。ピアノは鍵盤楽器ですが、仕組みとしては打楽器なのですね。

羊毛フェルトのハンマーはカチカチに固められていて、ピアノ1台で3頭分もの羊毛が使われているそうです。
調律師は音階のバランスを整えるだけでなく、このフェルトに針を刺して柔らかさや弾力を調整することで、ピアノの音色そのものも調整します。

タイトルの「森」に込められた2つの意味|1つ目は…

美しさを知る喜びの象徴

「羊と鋼の森」の「森」ということばには、2つの意味があると感じました
一つ目の意味は「美しさを知る喜びの象徴」です。

物語の始まり|神業調律師・板鳥宗一郎との出会い

物語の始まりは、外村が高校2年のとき。
放課後、たまたま教室に残っていた外村は、担任の先生に「お客さんが来るから、体育館に案内して」と頼まれます。

そのお客さんは、ずばぬけた技術を持つ調律師・板鳥宗一郎でした。体育館の舞台にあるピアノを調律するためにやってきたのです。

蘇ったピアノの音色に「森」を感じた外村

外村は板鳥さんがチューニングしたピアノの音を聞き、初めての感覚に襲われます。
その音色に「森」を感じたのです。外村にとって、美しさの象徴が「森」のイメージだったのです。
こちら、板鳥さんがその「マジックハンド」で蘇らせたピアノの音を聞いた時の外村の感覚です。

 森の匂いがした。秋の、夜の。僕は自分の鞄を床に置き、ピアノの音が少しずつ変わっていくのをそばで見ていた。たぶん二時間余り、時が経つのも忘れて。

 秋の、夜、だった時間帯が、だんだん狭く限られていく。秋と言っても九月、九月は上旬。夜といってもまだ入り口の、湿度の低い、晴れた夕方の午後六時頃。町の六時は明るいけれど、山間の集落は森に遮られて太陽の最後の光が届かない。夜になるのを待って活動を始める山の生き物たちが、すぐその辺りで息を潜めている気配がある。静かで、あたたかな、深さを含んだ音。そういう音がピアノから零れてくる。

板鳥さんとの出会いで、調律師になることを決心

こんなに鮮明なイメージがわいたのは、おそらく、外村が山育ちだったから。
外村の住む北海度の山間の集落には高校がなく、外村は地元の山を下り、一人暮らしをしながら高校に通っていました。
外村は、板鳥さんが鳴らすピアノの音色の美しさ、深さに衝撃を受け、自分も調律師になることを決心します。

タイトルの「森」に込められた2つの意味|2つ目は…

美しさを追い求める苦しさの象徴

「森」の2つ目の意味は、「美しさを追い求める苦しさ」です。
理想の音を追い求める調律師の世界には、絶対的な正解などないのです。
職人の世界、技術者の世界は厳しい…この小説を読んでいると、しみじみと感じます。

行き先も方向もわからない「森」

「柔道」「剣道」「弓道」「華道」「茶道」など、日本には「道」がつくジャンルがいくつかあります。
ならまだ、よりはましです。進むべき方向がわかっているのですから。
しかし調律師の世界は「森」なのです。理想の音があっても、そこにたどりつく道筋が分からない、そもそも、どの方向に進むべきかもわからない…「」には、そんな恐ろしい意味があります。

基準音の「49番目のラ」さえ、絶対不変じゃない

羊と鋼の森」には、この調律師の「森」の恐ろしさを示す話が出てきます。
ピアノの調律では、49番目の「ラ」の音を基準に音階を整えます。
ところが、この「ラ」の音の高ささえ、時代とともに変化しているのだそうです。

基準音「ラ」は440ヘルツのはずが…

基準音「ラ」は440ヘルツが基本。
しかし、時代が進むごとに、「明るい音」を求める風潮が強まり、外村たちも時には、基準音「ラ」を442ヘルツに合わせて調音することもある…そんなエピソードが出てきます。

モーツァルトの時代は422ヘルツ、日本では戦後まで435ヘルツ

モーツァルトが活躍していた時代の基準音「ラ」は422ヘルツ、日本でも戦後まで、基準音「ラ」は435ヘルツだったのだそう。

440ヘルツは、赤ちゃんの泣き声と同じ周波数

ちなみに440ヘルツは、赤ちゃんの泣き声と同じ周波数なのだそうです。こんなトリビアも、この小説で学びました。

客が求めるのは440ヘルツじゃなく、美しい「ラ」

「絶対」がない世界で、外村は不安にさいなまれながら調律師修業に励みます。
調律師の先輩、柳(やなぎ)さんに外村は打ち明けます。

「何を求められているのか、よくわからなくなるときがあります」

柳さんはこう答えます。

「ああ、あるねえ」
「でもさ、俺たちが探すのは四百四十ヘルツかもしれないけど、お客さんが求めてるのは四百四十ヘルツじゃない。美しいラなんだよ」

森は深い…こんな悩みを抱えながら、外村は少しずつ、腕を上げていきます。

先輩・柳さんの優しさに、心を揺さぶられます

この小説を読んでいて心が洗われるのは、調律師の先輩・柳さんの外村に対する優しさ。
とってもいい先輩なのです。こんなやりとりも交わされます。

「もう少しその怖さを味わえよ」

外村は毎日毎日、事務所にある6台のピアノを1台ずつ調律しています。美容師の卵がウィッグ相手にカットの練習をするのと一緒ですね。
でも、自分の努力の方向性があっているのかどうかわからず、不安にさいなまれてます。
ある日、柳さんにこう尋ねます。

「あの、怖くなかったですか。駆け出しの頃、もしもこのまま調律がうまくならなかったらどしようかと思いませんでしたか」

とっても優しい柳さん、こんな風に答えます。

「怖いのか」

黙ってうなずく。

「いいんじゃないの。怖けりゃ必死になるだろ。全力で腕を磨くだろ。もう少しその怖さを味わえよ。怖くて当たり前なんだよ。今、外村はものすごい勢いでいろんなことを吸収してる最中だから」(中略)

「だいじょうぶだ、外村は」

才能とは「ものすごく好きだっていう気持ち」

それでも不安が収まらない外村。
どんなに努力を重ねたところで、高みにはたどり着けないのではないか、自分には向いてないんじゃないか…
柳さんにおそるおそるこう尋ねます。

調律にも、才能が必要なんじゃないでしょうか、と。

これはきっと、芸の世界や職人の世界に身を置く人なら、だれしも囚われる恐怖ですね。
柳さんはこう答えます。

「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。俺はそう思うことにしてるよ」

僕は芸の世界にいるわけでも、職人の世界にいるわけでもありませんが、柳さんの温かい言葉に触れるたびに、いちいち泣きそうになりました。
柳さんが外村に向ける優しいまなざし、包容力、同じ「調律師の森」に身を置く者への敬意…そんなものが、心を揺さぶるのだと思います。

板鳥さんが目指す「理想の音」

作家・原民喜の「理想の文体」

外村はある日、憧れの存在である板鳥さんにも尋ねます。
「板鳥さんはどんな音を目指していますか」と。

板鳥さんは、作家・原民喜が残した「憧れの文体」に関する言葉を引きます。

明るく静かに澄んでいて懐かしい文体、
少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、
夢のように美しいが現実のように確かな文体

そしてこう語ります。

「原民喜が、こんな文体に憧れている、と書いているのですが、しびれました。私の理想とする音をそのまま表してくれていると感じました」

この言葉が、外村にとっての「星座」に

森の中でどこに行くべきか分からなくなっても、空を見上げればそこには、目指すべき姿の象徴がある。
調律師の森の中でもがきつつも、外村はこの言葉を「星座」のように大切にします。

きっとそれは、宮下奈都さんが目指す理想の文体

きっとこの原民喜の言葉は、作者の宮下奈都さんにとっても、「星座」のような言葉なのではないか。
この小説を読んでいると、そんな風に感じます。

「羊と鋼の森」の文章は、
明るく静かに澄んでいて懐かしく
少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えていて
夢のように美しいが現実のように確か

——そんな印象を受けます。

「羊と鋼の森」」はそれほど起伏の大きな物語ではありません。静かな小説です。
どのページを開いても、どこから読んでも、温かさと優しさと美しさが満ちている…そんな作品です。

「羊と鋼の森」の楽しみ方は?

「羊と鋼の森」はオリジナルの小説はもちろん、オーディオブック版、映画版もあります。

小説は文芸春秋刊|2016年本屋大賞を受賞

小説「羊と鋼の森」は文芸春秋から刊行されています。2016年に本屋大賞を受賞しています。文庫も出ていますよ。

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「羊と鋼の森」は電子書籍でも読めます。

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オーディオブックもあります

ナレーターは村上聡さん

「羊と鋼の森」はオーディオブック版もあります。ナレーターを務めるのは村上聡さん。

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映画版は2018年公開|気になるキャストは?

「羊と鋼の森」映画版は2018年に公開されました。気になるキャストは…?

外村役|山崎賢人さん

柳役|鈴木亮平さん

板鳥宗一郎役|三浦友和さん

和音役|上白石萌音さん

由仁役|上白石萌歌さん

双子の和音&由仁役は、上白石姉妹が演じたのですね。調律でピアノの音が変わる様子を、どう表現するのか…映像化が難しそうだな~と思ったりします。時間があったら見てみようと思います。

映画版はU-NEXT、アマプラで観られます

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