「入門経済思想史」アダム・スミス編要約②見えざる手の力で「私利の追求」が人のためになる

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もくじ

名著「入門経済思想史」アダム・スミス編の内容をざっくりまとめます

ロバート・L・ハイルブローナーさんの「入門経済思想史 世俗の思想家たち」(ちくま学芸文庫、2001年)は、その抜群の面白さであまたの若者を経済学専攻にいざなったといわれます。

(そのうちかなりの若者を後悔させたという説も…)

ハイルブローナーさんが描くのは、

  • アダム・スミス
  • カール・マルクス
  • ソースタイン・ヴェブレン
  • ジョン・メイナード・ケインズ

といった偉大な経済学者の学説と、人生と、人となり。

アダム・スミスの「変なおじさん」全開エピソードや、ケインズの華麗な成功ぶりなど、人物伝として読むだけでもとっても面白いです。

この記事では、「入門経済思想史」の冒頭を飾るアダム・スミス編の内容をざっくりとお伝えします。

ついにアダム・スミス生誕!…の前夜

前回の記事では、生産の3要素である

  • 生産手段(資本財)
  • 土地
  • 労働力

が取引され、活用が進むにつれ、経済社会の土台である「市場システム」ができあがっていく・・・というところまで書きました。

世界史のおさらい

世界史的なできごとをものすごーく大雑把に書くと、こんなことが起きています。

15世紀半ば~

  • ポルトガル、スペインが先陣を切ってアフリカ、アジア、アメリカ大陸に航海
  • 貿易で儲ける時代に
  • オランダ、イギリスが追随する

15世紀末~16世紀全般

  • イギリスの領主たちが小作人を畑から追い出して、羊の牧場に転換
  • ヨーロッパで毛織物の生産が盛んになり、原料の羊毛が高く売れるようになっていた
  • 小作人は耕作地を失い、工場で働く「勤め人」化。つまり賃金労働者になっていく
    (この時代の工場は、いわゆる「手工業」の小規模な作業場のこと)

1602年

  • オランダで世界初の株式会社「オランダ東インド会社」が誕生
  • 株主が株券を転売するための証券取引所もセットで誕生
  • 事業を起こすための資金調達の仕組みが生まれる
  • ポルトガル、スペインとの海運貿易競争に割って入るための「集金マシーン」として、株式会社方式が発明された

(以下、100年ほど略)

スコットランドのカーコーディという町でアダム・スミスが生まれたのは1723年

産業革命はまだ起きていなかったけれど、今に通じる「市場システム」がすでにできあがっていた。

ちょっと「ぼんやり」なスミス先生の半生を50倍速で

14歳でグラスゴー大入学、28歳で母校の教授に

入門経済想史」によると、アダム・スミス少年は秀才でした。

  • 14歳でグラスゴー大学に入学。
  • 17歳のときに奨学金を得て、オックスフォード大学に入学。
  • 1751年、28歳で母校・グラスゴー大学の倫理学教授に。ついで道徳哲学教授となる。
  • 1758年には学部長に昇進。
  • 1759年、「道徳感情論」を出版。たいそうな評判に。

政治家の息子の家庭教師として、フランスに渡る

この本でアダム・スミスに目を付けた政治家のチャールズ・タウンゼンドという男が、あるオファーを送ってきます。こんな内容でした。

「妻の連れ子の家庭教師やってくれん?報酬は年間500ポンド。経費も払うよ。終身年金も500ポンドつけちゃう!」

当時、大学の授業料は教授が学生から直接徴収しており、スミス教授の実入りは「せいぜい170ポンド」といったところ。タウンゼンドの申し出は破格でした。

このころのイギリス上流階級の子弟はヨーロッパ大陸に遊学するのが習い。

アダム・スミスはグラスゴー大学を去ります。1764年、タウンゼンドの息子の家庭教師となってフランスに移ります。

フランスではこんなことがありました。

スミスはヴォルテールに会い、彼を崇拝し、また好色な侯爵夫人(タウンゼンドの妻)の求愛を拒んだりした。

ロバート・L・ハイルブローナー「入門経済思想史 世俗の思想家たち」(ちくま学芸文庫、2001年)

なんだか小説のようですね…。

1776年、ついに「国富論」刊行

1年半のフランス滞在中に、有名な「国富論」の執筆にとりかかります。

英国に戻った後は、故郷のカーコーディで暮らしました。

1776年、ついに「国富論」が刊行されます。フランスで執筆に着手してから12年後のこと。

論文の正式名称は

諸国民の富の性質ならびに原因に関する研究」といいいます。

スミス先生、「火の鳥」の猿田にちょっと似てます

肖像画で見るアダム・スミスは、漫画の神様・手塚治虫さんの「火の鳥」に登場する猿田のような風貌をしています。

ちなみに猿田は「火の鳥」シリーズ全編にわたり、時代をこえ、姿と名前を変えて何度も登場すします。巨大な鼻の持ち主で、一目見ただけでそれとわかります。それぞれの作品で、業を背負って生きている切ないキャラクターです。

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放心癖がある「ぼんやり教授」だったスミス先生

キレッキレの頭脳を持つアダム・スミスですが、幼少のころから放心癖があり、一見すると挙動がおかしな人だったそうです。

入門経済思想史」では「ぼんやり教授」と形容されています。

たとえば、こんな感じ。

1780年代、スミスが50代後半のころ、エディンバラの住民は決まって、町のもっとも著名な紳士が薄色の上着、半ズボン、薄い絹の靴下、留め金付きの靴、平たいつば広のビーバー帽、そして杖といったいでたちで、目を無限のかなたに据え、声を出さずに話しているかのように唇を動かしながら、丸石を敷き詰めた通りを歩いていくおかしな光景を目にしたものである。一歩か二歩踏み出すごとに、彼は向きを変えるか、引き返そうかとためらうのが常だった。そのため、彼の歩き方を友人は「虫の動くよう」と評した。

ロバート・L・ハイルブローナー「入門経済思想史 世俗の思想家たち」(ちくま学芸文庫、2001年)

生涯独身でした。母親が90歳になるまで、一緒に暮らしていたそうです。

いよいよ本題「私利の追求が他を利する」話

大著「国富論」の中で、よく紹介される有名なくだりはこれ。

われわれが自分たちの食事をとるのは、肉屋や酒屋やパン屋の博愛心によるものではなくて、自身の利害にたいする彼らの関心による。われわれが呼びかけるのは、かれらの博愛的な感情にたいしてではなく、かれらの自愛心にたいしてであり、われわれがかれらに語るのは、われわれ自身の必要についてではなく、彼らの利益についてである。

アダム・スミス「国富論」(中公文庫、2020年、大河内一男監訳)

うん、わかりにくいですね。

他の訳も読んでみたが、あまり変わりません。翻訳とは難しいのですな…

発見①商売や事業の目的は「己を利すること」→結果として「他を利する」

大意はこうです。

・肉屋も酒屋もパン屋も、自分の店の利益を上げようとして商売している。
・別に、慈善事業でやっているわけじゃない。街のみんなが飢えないように、タダでハムやビールやパンを振る舞って歩いたりはしない。
商売や事業の第一義は「己を利すること」である。店の主人は自分の利益を追い求め、ハムやビールやパンを売る。その結果として「他を利する」。つまり、街のみんなのお腹が満たされる。
・事業家として生きるにせよ、商店主として生きるにせよ、工場労働者として生きるにせよ、自分の利益を追う、つまり「稼ぐ」ための行動が、誰かのためになっている。

これが、アダム・スミス先生の一つ目の発見です。

発見②私利追求の輩が暴走しないの?→市場の競争がブレーキです

では、べらぼうな暴利をむさぼることも、誰かのためになるのでしょうか?

アダム・スミス先生は、行き過ぎた私利私欲にブレーキをかける「自動調整機能」がある、と指摘します。これが二つ目の発見。

自動調整機能とは、「需要」であり、「市場の競争」のことを指します。

ハイルブローナーさんは、アダム・スミス先生の二つ目の発見の要諦をこう説明します。

市場は人々の需要という最終的な調停者に従って商品の価格と数量の両方を調整するだけでなく、商品の生産に協力する人々の所得をも調整する。

ロバート・L・ハイルブローナー「入門経済思想史 世俗の思想家たち」(ちくま学芸文庫、2001年)

オリジナルの表現は「見えざる手」|いつしか「神の見えざる手」に

「需要」と「市場の競争」は、

  • 価格
  • 供給量
  • 労働者の所得

の3つのバランスを自然に整えます。

この自動調整機能のことを、アダム・スミス先生は「見えざる手」と呼びました。

しばしば「神の見えざる手」という表現で紹介されますが、先生自身は単に「見えざる手(invisible hand」)としか書いていません。

なぜ「神の」という尾ひれがついたのか?

高井浩章さんの「おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密」(インプレス、2018年)の中で、中学生2人にお金の仕組みを教える謎の男・カイシュウ先生がこう説明しています。

「彼は単に『見えざる手』と書いたんだけど、その『手』があまりに神がかった素晴らしい仕事をするので、いつからか『神の』とオマケがついてしまった」

高井浩章さんの「おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密」(インプレス、2018年)

価格、供給量、労働者の所得を「見えざる手」がととのえるまで

手の持ち主はともかく、「見えざる手」がどう作用するのか、例を引いて説明してみます。

「あったかインナー」を2000円で売るひろし君|スタッフは時給1400円

ひろし君が経営するアパレル会社が、新素材を使った新商品「あったかインナー」を1枚2000円で販売します。

新商品は大ヒットします。ひろし君は工場のスタッフを増員するため、時給を当初の1100円から1400円に上げて募集をかけます。人を増やして増産体制に入り、ひろし君はイケイケ状態。儲かって笑いが止まりません。

次に登場するのは二匹目のドジョウを狙うゆきお君

「ぽかぽかインナー」を1500円で売るゆきお君|スタッフは時給1000円

同じような機能性素材を使った「ぽかぽかインナー」を1枚1500円で売り出します。あったかインナーより安い!とバカ売れ。「先行者をまねて追いつけ、追い越せ」戦略がまんまと当たります。工場は大忙し。

パクリ屋の上にケチなゆきお君は工場スタッフの時給を1000円に抑えていました。注文殺到で工場はお祭り状態だが、時給は頑として上げません。新たなスタッフも雇い入れません。人件費がかさむのがとにかくイヤ。

ゆきお君は工場の稼働時間を伸ばして、つまり既存のスタッフの労働時間をひたすら伸ばして生産を増やそうとしました。

スタッフは「やってられるか!」と相次いで離職。生産がストップしてしまいます。

「ぽかぽかインナー」は市場から姿を消します。

「ほっこりインナー」を1800円で売るよしこさん|スタッフは時給1200円

3人目の事業家、よしこさんは、機能性だけでなくデザインも優れた「ほっこりインナー」を1枚1800円で売り出します。女性に人気が出て、これがまた売れます。スタッフの時給は1200円

そのころになると、ひろしくんの会社の「ぽかぽかインナー」は価格競争に負けて売り上げが落ちました。生産過剰になって在庫があまり、売れないからスタッフの時給も維持できません。

ひろしくんは仕方なく、「ぽかぽかインナー」の価格を「ほっこりインナー」と同額の1枚1800円に引き下げます。スタッフの時給も1200円に下げざるを得なくなりました。

よしこさんの会社と同水準であれば、スタッフが流出することもありません。

競争の結果、販売価格とスタッフの時給は一定の水準に

…というような競争の結果、

機能性インナーの相場(価格)=1枚1800円
・売上とシェア(供給量)=ひろし君の会社とよしこさんの会社が拮抗
・工場スタッフの時給(労働者の所得)=1200円

という水準に均衡します。

消費者、事業家、労働者、それぞれの立場から見るとこうなります。

消費者は、「高すぎず、安すぎない価格」で機能性インナーを買う。
ひろし君の会社もよしこさんの会社も、「そこそこの儲け」を確保する。
(欲を出しすぎたゆきお君は退場の憂き目を見る)
工場で働くスタッフは「好待遇ではないが納得できる時給」で働く。

市場での競争を経て、「見えざる手」が指し示したかのように、価格、供給量、所得の3つが「ちょうどいいバランス」で落ち着くのです。

へたくそな例ですみません。ちょっとは伝わったでしょうか。

しかし、「見えざる手」の動きを邪魔するものがあります。

ああ、長くなってしまいました。

つづきはまた、別の記事に分けて書きます!

あらためて、今回の参考書

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