名著「入門経済思想史」アダム・スミス編の内容をざっくりまとめます
ロバート・L・ハイルブローナーさんの「入門経済思想史 世俗の思想家たち」(ちくま学芸文庫、2001年)は、その抜群の面白さであまたの若者を経済学専攻にいざなったといわれます。
(そのうちかなりの若者を後悔させたという説も…)
ハイルブローナーさんが描くのは、
- アダム・スミス
- カール・マルクス
- ソースタイン・ヴェブレン
- ジョン・メイナード・ケインズ
といった偉大な経済学者の学説と、人生と、人となり。
アダム・スミスの「変なおじさん」全開エピソードや、ケインズの華麗な成功ぶりなど、人物伝として読むだけでもとっても面白いです。
この記事では、「入門経済思想史」の冒頭を飾るアダム・スミス編の内容をざっくりとお伝えします。
経済学者がいなかった時代、社会はどんな姿をしていた?
物語は、経済学のお父さん、アダム・スミスが登場する以前の社会をひもとくことから始まります。
哲学者や歴史学者はギリシャ時代から存在したのに、なぜ18世紀まで、経済学者と呼ばれる人が誰もいなかったのか?
この謎を解くために。
人間は他者と協力せざるを得ない
木から降りて、二本足で歩くようになった人類の歩みを、ハイルブローナーさんはこんな風に評しています。
この地球という星において、生活の糧を搾り取るのは容易なことではないのだ。動物を飼いならすことを覚え、種を蒔くことを発見し、地表近くから鉱石を採掘するといったことに注がれてきた不断の努力には想像を絶するものがある。
ロバート・L・ハイルブローナー「入門経済思想史 世俗の思想家たち」(ちくま学芸文庫、2001年)
鋭いキバも爪も持たず、毛皮もまとっていない人間は、自然の中では虚弱な存在です。
だから、同胞と協力しなければ生きていけません。
ひとりでは生きていけないから、誰もが分業を受け入れて生きます。
農夫も、鍛冶屋も、墓堀人も、兵士も、大工も、祈祷師も、肥溜めの汲み取り役も。みな、社会に必要な役割を割り当てられているわけです。
でも、本当はとってもワガママ
でも、人間はアリのように「仲間との協力」が本能にインプットされているわけではありません。
それどころか本来、とってもワガママで自己中心的です。
何人かが「俺、この仕事いやだ」とゴネれば、パズルのピースが欠け、社会は機能不全に陥ってしまいます。
伝統と権力でフタをしてきた封建時代
人類は、社会の崩壊をどうやって防いできたか。
ハイルブローナーさんは、人類は何世紀もかけて、対処法をあみだしたと説きます。
それは、
・伝統の強制力
・権力のムチ
・市場システム
の3つです。
中世の封建社会では、「伝統の強制力」と「権力のムチ」が人の役割をしばります。
(「市場システム」はまだ生まれていないません…!)
たいていの人が親と同じ仕事に就き、同じ暮らしをして一生を過ごします。そして自分の子どもや孫も、自分と同じ生活をするのが当然だと考えます。「それが伝統だから」という理由で。
逃げ出したいと思っても、中央権力の独裁支配がそれを許しません。逃亡すれば、厳罰が待っています。
こうした社会では、立身してお金を稼ぎたい、という発想が生まれないし、そもそも「お金を稼ぐ」という概念もありません。「生きること=働くこと」で、「生計を立てる」という発想もなかったのです。
「市場システム」が生まれるまで
伝統と権力が人間の役割を固定する封建社会の中で、じわじわと時間をかけて、「市場システム」が醸成されていきます。
ハイルブローナーさんはその要因をいくつか挙げています。
ひとつは、中央集権的な君主制国家の誕生。
これによって、
- 軍需産業の発展
- 法律の整備
- 度量衡の共通化
- 通貨制度の整備
などが進み、経済活動の土壌が生まれます。
精神的な要因としては、「プロテスタンティズムの台頭」を挙げています。
それまでキリスト教の主流だったカトリックは清貧を美徳としていました。
これに対してプロテスタントは「神の栄光のために禁欲と勤労に励むべし。蓄財もOK!」という教え。お金を稼ぐことが善である、という思想が生まれます。
ハイルブローナーさんは、
ここまでくると、富の大きさと精神的崇高さを、金持ちと聖者を同一視するところまであと一歩である。
ロバート・L・ハイルブローナー「入門経済思想史 世俗の思想家たち」(ちくま学芸文庫、2001年)
と評しています。
ちなみにマックス・ウェーバーさんの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(日経BP、2010年)によると、やがて「神の栄光のため」という目的は忘れ去られ、プロテスタンティズムの精神は形骸化します。
「とにかく働いて稼ぐのが善」という、本来は手段でしかなかったものが資本主義のエンジンとなるのです。
で、市場システムって何?
中世の封建社会にも、もちろん商売はありました。商品を売り買いする「市場(いちば)」もあります。
でも、「市場システム」はなかったのです。
それは、生産の3要素が自由化されていなかったから。
商品を生産するのに必要な3要素―生産手段(資本財)、土地、労働力
生産の3要素とは、
- 生産手段(資本財)
- 土地
- 労働力
この3つについて、ギリシャの経済学者ヤニス・バルファキスさんが「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」(ダイヤモンド社、2019年)で、以下のように説明しています。
ヤニス・バルファキス「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」(ダイヤモンド社、2019年)
- 自然から採取する原材料(鉄鉱石など)、それを加工する道具や機械、そうしたすべてを置く建物や柵、そしてインフラ一式。これらすべてが「生産手段」であり、経済学者の言う「資本財」である。
- 「土地」または「空間」。たとえば農場、鉱山、工場、作業場、事務所といった、生産がおこなわれる場所。
- 製品に命を吹き込む「労働者」。
3要素がそろって、市場が誕生する
- 生産手段
- 土地
- 労働力(労働者)
この3要素が「売りもの」あるいは「貸し出しOKなもの」として自由に取引され、あるいは生産拡大のためにガンガン活用されるようになって初めて「市場システム」が成立します。
例えば土地。領主が長年、自分の土地で小作人に麦を作らせているとします。
土地を有利に活用しようとする領主
「市場システム」誕生以前は、土地をより有利な形で活用しよう、などと考える領主はいませんでした。土地とは先祖代々「麦畑」であり、収穫される麦が領主一族と小作人を養っていました。
やがて工業が発達し、貿易が盛んになると、いろんな選択肢が生まれます。
事業家から「あなたの土地にパン工場を建てたい」との申し出があれば、領主は事業家に土地を貸し出し、地代収入を得ることができます。今までは自分たちが食べる麦を生んでいた畑が、事業家と取引したことで、放っておくだけで金を生む「賃貸物件」になります。
あるいは「海外では羊毛が高く売れるらしい」との情報が入れば、領主は麦畑をつぶして小作人を追い出し、羊の牧場に衣替えすることもできます。
自分の労働力の買い手を探す労働者
労働者を例にとると、もっとわかりやすいです。
封建社会では小作人は一生小作人で、転職などできなませんでした。
ところが、領主が麦畑をつぶし、羊の牧場に変えたために追い出された元小作人は、別の仕事を求めざるを得ません。自分が提供する労働力に対して、最も高いお金を払ってくれる職場を探します。労働者は、自分の労働力を「売る」ようになります。
中には、一念発起して自分で事業を起こす人もいるかもしれません。
こうして、経済社会の前提となる「市場システム」が生まれていきます。
そして、アダム・スミスが…まだ生まれません
18世紀まで経済学者がいなかったのはつまり、「経済社会」がこの世に出現していなかったから。
経済学の父、アダム・スミスは、市場システムが整いつつある1723年、スコットランドで生まれます。
長くなったので、記事を分けてお送りします!
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